第3章 さしも知らじな
柱合会議から、さらに数週間の時が過ぎた。音羽とは顔を合わすことはなかったが、錆兎の胸の中の苛つきやモヤモヤが晴れることはなかった。
それどころか、天元と話して、触れてはいけない感情に触れてしまったせいで、さらに悪化してる。
そんな気分を吹き飛ばそうと、錆兎は義勇を稽古に誘った。
某日・水柱邸
水柱邸の敷地に面した、鬱蒼とした竹が生い茂る林の中、義勇は竹刀を両手で握りながら、錆兎と対峙していた。
「どうした?…いきなり稽古をしようなどと、柱は柱同士でするのが通例だろう。」
義勇は錆兎から目を離さないよう、その動向を探りながら、静かに問いかけた。
「別にそうと決まったわけじゃない。柱は同等の実力を持った奴が他にいないから、柱同士でするだけだ。義勇、お前なら申し分ない。俺が先に柱になったのだって、運良く十二鬼月に遭遇して、倒した。それだけだ。」
錆兎が竹刀を構え直し、ジリっと義勇ににじり寄る。
「それにお前は、俺の継子なんだからなっ!」
そう言うと錆兎は、義勇に向かって走り出した。
水の呼吸・肆ノ型・打ち潮
荒波が打ち付けるような、重たい錆兎の一撃が義勇に迫る。
「錆兎、その話しは断ったはずだ。」
義勇は錆兎の攻撃を待ち構えると、寸前で身体を大きく振りかぶるように捻った。
陸ノ型・ねじれ渦
勢いよく繰り出した竹刀が、錆兎の重い一撃を受け止める。その瞬間、激しい水流が渦を巻いて、錆兎に襲いかかった。
「おっとっ!」
錆兎はそれを、空中で身を捻ってかわすと…、
「そう言っても、今継げる実力があるのは……、」
そのまま横に回転しながら、義勇に斬りつける。
「お前しか、いないだろっ!」
弐ノ型・横水車