第39章 桜餅か桜酒か(信玄様&謙信様)
ゴソゴソ……
「………」
(ちょっと…いい匂い、これって謙信様のお香?体臭?
深呼吸したいくらい良い香りなんですけど!?)
柔軟剤のCMみたいにスーハ―したいけどそんな欲望丸出しにはできない。
ということで匂いを嗅がないように口呼吸にしてみたけれど、それだとハアハア興奮してる人みたいにで、やっぱり控えめな鼻呼吸に戻した。
謙信様の体温や香りで急に意識してしまって戸惑っていると、佐助君が無情なアドバイスを投げてよこした。
佐助「体格差があるから、舞さんは謙信様の背中に抱きつくぐらいしないと手が届かないと思う。頑張って」
「だ、抱きつく……!?」
私は思わず羽織の中で声をあげた。
極力どこにも触れないように気をつけている人間に『抱きつけ』とは厳しいアドバイスだ。
信玄「女に抱きつかれたら謙信が鳥肌を立てて気を失うかもな」
義元「信玄、そんなことを言ったら舞が困るだけだ。
ああ、ほら羽織の中で固まっちゃったみたいだよ」
(抱きついたら気絶…?その前に斬られるんじゃないの!?)
さっき『誓って怒らない』と言われたことをすっかり忘れてビビりまくる。
だってそのくらい女性につれない人なのだ。
冷たくあしらっているのを見たことがあるけど、当事者じゃない私でも絶望を感じるような、それはそれは冷たい言葉と態度だった。
相手の女性は屈辱で怒るか、絶望で泣くか、立ち去って永遠に姿を見せないかだ。
(『視界に勝手に入ってくるな、不快だ』とか言ってた人なんだよ?
怖い、もう泣きそうっ、そうっと、そうっと……)
身体を密着させずにギリギリまで近づいて袖に腕を通していく。
(うぅ、恥ずかしい。
あ、やっぱりもっとくっつかないと袖から手が出ない……っ!)
限界まで腕を伸ばしているのに、あと少し足りない。腕をプルプルさせていると、凄く近いところから声がした。
謙信「お前は腕が短いな。
安心しろ、遠慮なく抱きついていい」
「それはちょっとムリな話しで……」
謙信「しかし手を出さんと二人羽織はできまい」
「じゃあ、このくらい…」
身体をくっつけないように腰は引いたまま、顔も逸らしてさらに腕を伸ばす。