第50章 ❤︎ 何年たっても特別な日は変わらない 岩泉一
松「ご馳走様。片付け任せて悪かったな」
「全然。私も楽しかったし」
花「今からやっと二人の時間だな」
及「俺も一緒に送っていこうか?」
「いらねぇよ」
松「及川は俺らが責任もって家まで送ってくから。いちかをよろしく」
「おう」
花「じゃあ俺たちも帰ろうぜ」
及川を両脇を抱えるように松川と花巻が囲む。まだ何か言いたそうな及川の表情につい吹き出しながらバイバイと手を振った。
「面倒くせぇな…。うるせぇし」
「いいじゃん、私は楽しいし」
「俺は飽きたわ」
そう言いつつも及川のこと、嫌いじゃないんだよね。一君は怒るから言わないけど…。
「私も送ってもらっていい?そろそろ帰らなきゃ」
「…ん」
戸締まりをした後、“行くか”と手を差し出してくれる。そのおっきな手を握ればクラスメイトから一君の恋人に変わる。
「ありがと」
「んじゃ、帰るか」
「うん」
6月の蒸し暑い夜。湿度が増す夜空に星は見えなかったけど、街灯が照らす帰り道は二人の距離を近づけてくれた。
今日は門限の時間を少し延ばしてもらっているけど、お別れまで束の間の僅かな時間。玄関の前で電柱の影に隠れるように抱き合う。
ここで抱き合って、キスをする。付き合って一年が経って、まだ分からないことだらけだけど、キスのタイミングはなんとなく読めるようになったのは少し嬉しい。思わず頬が緩むのを一君の腕の中でバレないように顔を埋めて照れ隠し。
「来年は二人でいい。…あいつら余計な事ばっか言ってくるし」
「及川怒らない?」
「関係ねぇよ」
「でもこうやってお祝いしてくれるんだからいいじゃない」
「お祝いしてもらって喜ぶ歳でもないしな」
「えー?私は友達にお祝いしてもらうの嬉しいけどな」
「俺、男だから」
「勿体ないな」
くすくす笑いながら体を預けて、この時間がもっと続けばいいのにと思った矢先、スマホのアラームが鳴り響く。