第72章 結婚するまで帰れません(1) 岩泉一
「ああ、そりゃあこんな可愛い子だったら心配にもなるよね。じゃあまた今度送らせて」
「はい。今日はありがとうございました。助かりました。松川君も本当にありがとう」
「いいよいいよ、何かあったらいつでも言ってね」
「サプライズ、上手くいくといいな」
「うん。もう少し考えてみるね。……じゃあまた明日学校で」
「うん、またね」
「気をつけて」
俺たちに丁寧に一礼をしてからいちかちゃんは足早に店を出て行く。あの面倒臭いタイプの及川相手に見事なまでに無駄のないやりとりだった。
「あーあ、もう少し一緒にいたかったなぁ。楽しい時間ってあっという間だったな」
確かにコンビニを出てからは30分くらいしか経っていなかった。店にいたのだって10分くらいなものだしお母さんからの連絡っていうのも多分、嘘。
「でもさ、最初に会った時は超絶塩対応だったのに今、いい感じじゃない?』
「ああ、まぁ、そうだな」
「俺に相談してくれたってことはこの先ちょっと期待してもいいのかな?」
「さぁ…、それはどうか分からないけど……」
「次はさり気なく家に送っていって、家が分かったら朝偶然を装って登校したりさぁ」
「ストーカーまがいなことは止めとけって」
「普通じゃん!みんなやってんじゃん!」
「いや俺はしないけど…」
「だからまっつんはモテないんだよ。もっと積極的に動かなきゃ!ってことで今日のことは後で岩ちゃんに自慢しとこー」
「ウザがられるよ」
「いつものことじゃん。なんかいちかちゃんって岩ちゃんには優しい気がするんだよね。岩ちゃんが強面だから怖いのかな」
「さぁ?それは分からないけど、でも及川もほどほどにな…」
ま、及川ならすぐ自慢するのは目に見えていた。けど岩も結構鈍感だからいちかちゃんが自分のためにシューズを選んでくれてるなんて思わないだろう。
案外いい感じに岩を煽ってくれたらいちかちゃんの一途さに気付いて二人の進展があるかもしれない…、そう思っても俺は後で花巻に今回のことを全て報告しておいた。