第3章 飼われた鳥は自由か不自由か
左馬刻さんが口を開く。
「お前、この部屋出ろ」
「へ? あの、何で……」
「それとも、まさかあのドクズのクソ野郎を待ってるなんて、言わねぇだろうな?」
低く唸るように囁き、鋭くなる目に、ゾクリとして身が震える。
なのに、その声と視線に、恐怖だけじゃないゾワゾワした何かが体を走る。
私の体は、もう彼の一挙一動だけで、感じるようになってしまったみたいだ。
「それはっ……違います……」
そもそも、私はあんな男を一瞬だって好きになった事なんてないから。
「フッ……何でこの状況で、んなエロい顔してんだよ、ばーか」
「ぁ……そんな、顔っ……してなっ……」
するリと足を撫で、スカートに手が入る。
足を開かされ、後ろに倒される。
「荷物纏めて、俺んとこ来い……」
まるで、プロポーズでもされているみたいな気持ちで、不覚にもときめいてしまう。
この言葉に深い意味なんて、ないのに。
散々抱かれた後、ほとんどない荷物を持ち、部屋を出る。
「お前、マジで荷物少ねぇな……女ってもっと、服とか色々持ってるもんなんじゃねぇのか?」
「必要なかったから」
あの頃の私には、自由なんて全くなくて、私の時間はあの男の時間だった。
「特に欲しいものもないし、普通に過ごせてるので、これでいいんです」
平和であれば、私は何でもいい。まぁ、ヤクザに体差し出してる時点で、平和かと言われれば微妙だけれど。
外はすっかり暗くなっていて、車は相変わらず待っている。
運転している組員さんには、悪い事をしたな。
車に乗り込む。
「俺様のマンションまで行け」
それだけ言うと、車は走り出した。
相変わらず肩に手を回されて、窓の外を見ている綺麗な横顔がある。
そしてふと思う。
他の女の人とも、こうやって車に乗るのかな。
モヤっとした胸を押さえる。
駄目だ、絆されちゃ。新しい女だから、今は気まぐれで構われてるだけだ。絶対後悔する。
この人に惹かれては、駄目だ。
ぐるぐると思考を巡らしていると、車が止まった。
先程と同じように車から降りて、掴まれた手首をゆっくり離す。
こちらを不思議そうに見た左馬刻さんに断りを入れ、車に戻る。