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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第43章 水着と下着、その差はいかなるものか✳︎【暖和】※微裏有


更衣室を急足で出た私は、暖簾をくぐり、まっすぐと"天空露天風呂入口"と書いてある曇りガラスで出来た扉を開けた。


すると


「……っ…凄い…!」


視界に入ってきたのは、綺麗な三日月の浮いた空だった。建物の高さが他のビルよりも高いおかげで、視界には空が一面に広がり、その手前にある大浴槽は、名前の通り天空に浮かんだ露天風呂という表現がぴったりなそれだった。

けれども


…と、それどころじゃなくて…早く杏寿郎さんを見つけないと…!


"それどころじゃない"と思うのはいささかおかしい気もするが、1人でいれば確実に女性の目を引き、声を掛けられてしまうであろう杏寿郎さんと早く合流しなければと周囲を見回す(杏寿郎さん自身も、今までの経験上自分が声を掛けられやすいという自覚があるようで、なるべく人のいない目立たないところで待っていると言っていた)。

すると


……っ…いた!


杏寿郎さんは、宣言通り、人があまりいない、従業員専用出入り口付近にいた。

確かにそこなら、天空露天風呂を楽しみにきた人達の目にはつかないだろう。けれどもその出入り口を使う人達…つまり、従業員の目につかないのは位置的に無理というもので


……っ…あの人…仕事中なのに…杏寿郎さん声をかけるなんて…!


私の視線の向こうでは、従業員専用の服を着た女性が、明らかに色目を使いながら杏寿郎さんに話しかけていた。

杏寿郎さんに色目を使うことも、自身の仕事を放棄しているその様も、どちらも腹立たしい。

私は急いでそちらに向かい、表情を曇らせながら女性と話をしている杏寿郎さんへと近づく。杏寿郎さんは、私が近づく気配を感じ取ってくれたのか、私の方へとパッと視線を寄越してきた。

その時。

杏寿郎さんの目が私の姿を捉えたのか、普段から大きく、猛禽類によく似た夕陽色のそれを更に大きく見開いた。

私は、杏寿郎さんの隣に立つ女性の存在を無視するように、スッとその人と反対側に立つと


「お待たせしてすみませんでした」


杏寿郎さんの右腕にギュッと抱きついた。


「…っ!」


するとその女性は、気まずそうな表情を見せた後、サッとその場を去り、従業員用出入り口の向こうへと消えて行った。

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