第42章 推すのに忙しい私を押してこないで*煉獄さん
…っ…距離近い…急に…どうしたんだろう…?
そんなことを考えていた私だが
「やっぱり煉獄さんだわ!」
「…っ!!!」
不意に聞こえてきた大好きな蜜璃様の声に、ピシリと身体が石化したように硬くなる。
「そんなところで何をして…っ…きゃぁぁあ!煉獄さん、そこにいるのはもしかして…!!」
…っ…どうしよう…蜜璃様に…ばれちゃう
屋敷で仕事をしているはずの人間がこんな場所で一体何をしているのか…疑問に思わないはずがない。そして万が一、蛇柱様に何をしていたのかと問いただされようものなら、私はきっと口を割らずにはいられない。
そうなれば自ずとたどり着く結論は
”蜜璃様のお屋敷を出ていくしかない”
私にとって世界の終わりを告げられたような答えだった。
悪いのは覗き行為をしていた私だ。そんなことはわかっている。それでも
……嫌…蜜璃様と…離れたくない…!
気が付くと私は、目の前にある煉獄様の隊服を両手でギュッと引っ張るように握りしめていた。
するとその時
「すまない甘露寺!この子は酷く恥ずかしがり屋でな!まだ君に紹介することは出来ない!」
炎柱様はそう言うと、羽織で隠している私の上半身を更に隠すように、私の背中にぐっと腕を回し強く抱き込んだ。
「とっても恥ずかしがり屋さんなのね!…っ可愛い!それにそれに、恥ずかしがる恋人を守る煉獄さん…っ素敵!胸のときめきが止まらないわぁ!」
そんな蜜璃様の口ぶりから、蜜璃様が煉獄様の腕にいる人間が”私”であることに気が付いていないことが伺い知れる。
…念のために、自分の着物を着て来てよかった
お洒落というものにあまり興味がない私は、基本的に地味で無難な柄の着物しか持っていなかった。けれども蜜璃様はそんな私に
”すずねちゃんには、絶対こういう色味の着物の方が似合うわ!私、実家からいっぱいお着物を持って来たんだけど、着る機会もあまりなくて箪笥の肥やしになってるの!だから私の代わりに着てあげてちょうだい!”
と言って、自分の着物を何着も譲ってくれたのだ。