第30章 2人で初めてのmerryXmas【暖和】
「あの…まだ春巻きが完成していないんですけど、ローストビーフとスープ、それからサラダはもう出来ているので、杏寿郎さんが少し休憩したら…外にデートに行きませんか?」
部活を終え、帰宅してきたばかりの杏寿郎さんにそんなおねだりをすることは聊か憚れたが、それ以上に初めて杏寿郎さんと共に過ごすクリスマスを(今日はまだイブだが)どうしてもクリスマスらしい過ごし方がしたくて堪らなかった。
「俺もそう言おうと思っていたところだ」
「っ本当ですか!?」
「うむ!俺の準備は服さえ着替えればあっという間に終わる。すずねが春巻きを作り終えたら出かけるとしよう!」
杏寿郎さんのその言葉に
「やったぁ!嬉しいです!すぐに済ませてしまいますので少し待っていてください」
私はジャンプするとまではいかないが、身体を上下に忙しなく揺らし、全身で喜びを表現した。
杏寿郎さんはそんな私の様子が相当面白かったのか
「わはは!そんなに慌てずともクリスマスイブは逃げたりしない!よし!そこまで俺とのデートが楽しみなのであれば、俺も春巻きを作るのを手伝おう!」
”俺も春巻きを作るのを手伝おう”
満面の笑み。なおかつやる気満々にそう言ってくれた杏寿郎さんではあったが、私は杏寿郎さんのその提案に戸惑っていた。
…杏寿郎さん…春巻き…巻けるのかな…?
大変失礼ながら、私はそんなことを考えていた。
今日作ろうとしていた春巻きは、普通のもやしと春雨、細切り肉、ニンジン、そして玉ねぎの入った普通の春巻と、厚めのハムとチーズを巻いた春巻きの2種類。
ハムとチーズの方は簡単だ。けれどもそちらはすでに私がやってしまっていた。残るは普通の具の方。こちらはハムとチーズに比べると難しい。
…大丈夫かな…
そんな私の考えは、しっかりと顔に出てしまっていたようで
「俺だってそれくらいは出来る」
杏寿郎さんが僅かにむっとした表情をしながらそう言った。