第2章 主人として
「私もね……よくおばあちゃんとチェスをしていたの。
全然歯が立たなくて、いつか勝つと何度も挑んだものだよ」
言いながら、その瞳が懐かしさに和む。
そのひかりに魅せられながら、ナックは唇をひらいた。
「貴女は、お祖母様が心からお好きなのですね」
微笑ましげに告げる声に、さらに色づく笑顔。
「うん、………大好きで、自慢の祖母よ」
微笑むそのおもては、本当に幸せそうで………。
綻んだ唇に、つられたように彼らも微笑う。
紅く、艶めいた唇が、音楽のように声を奏でる。
喜びと懐かしさ。温かな感情に染まる瞳が、生き生きと煌めいた。
「……チェックメイト」
コト……と黒のキングを追いつめ、宣言するナック。
「もおおぉぉ……!」
悔しげに呟く。唇をかみしめる彼に指摘した。
「貴方の攻め方は透明すぎるのです。だから負けるのですよ」
「っいまに見てなよ。いつか絶対に勝ってみせるから……!」
びしっと人差し指を振り、ラムリが彼を睨みつける。
そして苛立たしげに部屋を出ていった。
「あらあら……。」
くすりと微笑うベリアン。そんな彼につられたように彼女も笑う。
けれど、その胸の内は切なさが満たしていた。
(ふたりをみていると、父さんと母さんを思い出すの)
染みのように広がる感情を、目を背けることなくまっすぐに繙く。
(父さん、………母さん)
最期まで守ってくれた母さんと、
身勝手な恨みに身を沈め、最期まで「私」を憎みつづけた父さんを。
(でも……それでも私は、)
胸の痛みを封じこめ、みずからの想いをみつめた。
(せめて……想うだけは許してくれる………?)
指輪にふれ、胸のなかで祈りを捧げる。
自分をみつめるふた組の視線に気づかないまま。
(また……その瞳をなさるのですか)
彼女は時折瞳を翳らせる。切なさと苦悩に染まった、悲壮な瞳だ。
(貴女は、痛みも、悲しみも……知りすぎているのでしょう)
彼らさえも視えていないかのように、物思いに沈む瞳。
その指で煌めく指輪だけが、彼女のすべてを理解しているのだろう。
「っ………。」
そう思考に載せた途端、鈍い痛みが広がった。
彼女のほうへと伸ばしかけた指を、しかし、 ベリアンは必死に封じ込める。