第6章 惑いの往く末 前編
「マリス……! マリスーーー!」
森のなかで声の限りにその名を呼びながら、靴で草花をかき分けるように進んでいく。
さく、さくりと落ちた枯れ葉を踏みしめながら歩いていると、いつの間にかひらけた場所に往きついた。
「ここは……?」
戸惑いに染まった声が酷く空虚に響く。
シロツメクサの葉が絨毯の如く地を覆い、白樺の木々がまるで円形のステージのように、
視界のひらけたその場所をぐるりと取り囲むように生い茂っている。
「来ると思っていましたよ」
振り返ると、そこには見知らぬ男。
錫色のシャツに深緋色のボウタイを結び、
その上にボウタイと同色のタブレットと黒曜のジャケットを合わせている。
テイル部分に銀糸で蜘蛛の巣の刺繍されたそのジャケットにシャツと同色の脚衣を纏い、
足元は紅いリボンで編み上げた黒曜のブーツで形の良い蝶々結びが風に揺れている。
長めの前髪を左に流し、左目を隠すように形づくって、
ややクセのある黒髪は襟足にかかる程度の長さで、面長のおもてに甘い華を添える。
その瞳は紅。闇のなかでもその鮮烈な色彩がはっきりと見える程、深いふかい紅の色。