第2章 寮の怪異事件
チリン、チリン……。
朝の空気に、またあの鈴の音が溶けてきた。
お風呂場の奥で聞こえた、あの音。
……でも、今はみんなここにいるはずなのに。
「……なんだ、今の音」
伏黒くんがすっと立ち上がる。
「誰か来てる?」
乙骨さんも静かに窓を見たけれど、そこには何もなかった。
(まさか……)
胸元のペンダントをぎゅっと握る。
「香久夜」
伏黒くんの声がした。
顔を上げると、真っ直ぐにこっちを見てた。
「部屋に戻って。鍵、かけて。……これは、たぶんお前のせいじゃない。けど、念のため」
「……うん」
ただそう言って頷いた。
「ごめん。」
そう呟いて、席を立った。
廊下に出ると、棘くんと目が合った。
彼は静かに手を振って、「めんたいこ」と言った。
──たぶん、それは「気をつけて」って意味。
言葉じゃなくても、ちゃんと伝わるのが不思議で、少しだけ笑ってしまった。
歩く廊下、冷たい空気。
(……また、来るのかな。)
そう思った瞬間、背中にひやりとした気配が走った気がした。