第7章 promise[煉獄杏寿郎]
はなが慌てて赤子を掬い上げて胸に寄せると、赤子の眉間に寄っていた皺が解けていく。
薄明かりの中で見る彼女の顔は、俺が見たことのない母の顔だった。
「すっかり母の顔だな。この子が生まれる瞬間にいてやりたかった」
どんな産声を上げて生まれてきてくれたのだろうか。はなはどんな顔でこの子を見つめたのだろうか。
百年前にあったほんのひとときの瞬間を想像するだけで愛おしくて、尊くて眼頭が熱くなる。
「杏寿郎様、この子を抱いてくださいませんか?」
母の顔をしたはなに見惚れていた俺に優しく問う。はなの腕の中の赤子は瞼を開けてはなを見上げると、まん丸の瞳を俺に向けた。
太陽のような瞳は汚れを知らない無垢、そのものだった。
そんな美しい瞳に映る俺は、今どんな顔をしているのだろうか。
「いいのか?」
「もちろん。杏寿郎様の子です」
恐る恐る伸ばす手に、はなが小さな体を乗せた。なんて軽いのだろうか。
胸に引き寄せると、その軽さに似合わない命の重みを感じた。息をして血を巡らせ、心臓の鼓動を力強く響かせる生命の強さがこの小さな体に詰まっている。
手のひらに指を乗せると、きゅっと握った。希望を掴むような力強さに、俺の目からは知らずのうちに涙が流れていた。
「あなたのお父様の手は温かいですね」
はなが俺の指を握る赤子の手を下から包み込むようにして手を添えた。
はなと赤子、そして俺の手が時を超えて重なる。
今生きる時代にはながいるのか、不安で堪らなかった。その不安がこの小さな手が全て消してくれるようだった。
この子がはなと俺を繋いでくれる。そんな気がしてならなかった。