C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第28章 空と月の間※
わたしたちは手を繋いで、薄暗い公園内を歩いた。潮風の匂いが鼻につく。暗闇の中、美しく輝くレインボーブリッジとその奥に東京タワーが見える。そして、一面に広がる海はそれらを水面にきらきらと映していた。
わたしたちは足を止めて、目の前に広がる景色を黙って見ていた。耳に聞こえるのは傘に落ちる雨の音だけ。そのリズムが心地よかった。潮風の匂いと海は、あの日のラクエの海岸の記憶を呼び起こすようだった。
初めてランギルスがわたしに想いを伝えてくれたとき。
わたしにクローバーのネックレスをくれたとき。
そして、わたしを元の世界へと送った別れの日。
満月の夜、24時に────……
「僕はあの日、君を元の世界へと送る日、君の幸せを願った。僕はクローバー王国の平和のために戦わなければならなかった。君を救いたかった。だから、君には幸せになってほしい。自分が幸せになれる道を選んでほしいんだ。そしてできれば、」
“君が選んだ道に、僕がいればいいと思ってる”
そのとき、雲の切れ間から月が姿を見せた。月は高く明るく、暗闇をかき消して一面雨雲に覆われていた夜空を輝かせた。満月だった。水面にできた月光の延長にはふたりだけ。まるでふたりだけの世界のようだった。
「ランギルス……今のわたしの素直な気持ち聞いてくれる?」
「あぁ」
ランギルスは小さな声でそう返事をした。少し緊張しているのが伝わって、わたしは思わず綻んでしまった。先ほどの車の中の彼の態度とは、打って変わっていたからだ。
「ランギルスと……もう一度いっしょにいたい。……だめ、かな?」
瞬間、傘が地面に落ちた。力強く引き込まれる体。ぎゅっと包み込むように腕が回った。
「だめなわけ……ないでしょう?もう探すのも待つのもうんざりだよ……ミライ……やっと見つけたんだ」
青白い光に照らされて、まるでふたりだけが世界から切り取られたようだった。
音もなく静かに涙が頰を伝い、ランギルスの胸を濡らしていく。雨なのか涙なのか、きれいなスーツに染みを作っていく。
「ランギルス……好き……好きだよ」
「あぁ、僕もミライ……君が好きだ」
ランギルスはそう言って、わたしの涙を指で拭った。そして、そっとわたしの唇に口付けた。月明かりに照らされたふたりの影は重なった。