C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第27章 雨の夜
誰かを好きになると、不安になったり、胸が苦しくなったりする。
そんな感情は今のわたしには必要ない。仕事の邪魔になるだけ。
だから、しばらく恋愛はしない、と決めていた。そう、決めていたはずだった。
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梅雨に入ってから雨ばかり降っている。本当に夏が近づいているのだろうかと、不安になるくらい冷たい雨だった。雨音が淋しいリズムを刻んでいる。
「おはようございます」
今日もいつものように出社し、仕事に取りかかる。株式会社Luneとのコラボ企画の商品も企画制作を進めている。社内は慌ただしい様子だ。
今日は仕事終わりに、ヴォード社長と会う約束をしている。株式会社Luneに打ち合わせに行ったあの日。わたしはヴォード社長に出会った。その日から何度か誘われては、ふたりで会っていた。
最初はLuneの若手社長がわたしなんかに声をかけてくるなんて、遊ばれているだけだと、そう思っていた。アパレル会社の社長なんて、モデルや芸能人と関わることも多いし、付き合いで夜のお店に行くこともあるだろうから、遊び慣れているんだろうと思った。
車はRangeRoverだし、時計はTAGHeuerだし、有名な株式会社Luneの若手社長という肩書きだけでも、女の人に困らないと思う。背はそれほど高くないが、見た目はかっこいい部類に入る。日本人離れした澄んだ青い目をしていて、吸い込まれそうになる。
ヴォード社長がわたしみたいな一般人を相手にするわけがない。アパレル会社の本社勤務として、体型維持や日々メイクの研究、自分に似合うコーディネートを考えている。だが、どう考えてもヴォード社長の周りに集まる女の人はもっとレベルが高いと思う。
「僕も君と同じ、だよ、好きになった人を好きになる。社長だから、とか関係ないよ。だから、また君と会いたい」
初めて紅茶のお店に行ったとき、ヴォード社長にそう言われて、彼のことをもっと知りたいと思った。肩書きや外見だけではなく、社長としてのヴォード社長でもない。本当の彼を。
ヴォード社長は会うたびに、いろんなところへ連れて行ってくれた。彼といると、なぜか居心地がよかった。初めて会った日から、そうだった。彼がわたしにテドゥルヌを淹れたあの日から。