第29章 黒尾end
コトッとカウンターに湯呑みが置かれる。
「ありがとう。」
治「ホンマはビールでも飲んで乾杯したいとこやけど、営業中やし今は我慢やな。ともみちゃんはビールにしとく?」
私は首を横に振った。
「今日は治君のおにぎり、食べに来たから。
ずっと楽しみにしてたんだ!」
治「そんなん言われたら10個でも20個でも作るで?」
さすがに無理ー!と笑い合う。
5年の月日が嘘のように治君は昔と変わらず接してくれた。
侑君と同じ顔だけど、少しだけ柔らかく笑う顔、穏やかな声。
懐かしい高校時代の思い出が甦る。
「・・連絡、ずっとしなくてごめんね?」
カウンター越しに目が合い、治君がフッと笑った。
治「こうして来てくれたんやし、ええよ。
こんな嬉しいサプライズ他にないやろ?」
相変わらず優しい治君に、熱いものが込み上げてきそうになってしまう。
「・・日本に戻って来て、あやかちゃんや倫太郎くんとは電話で連絡したんだけど…治君と侑君にはなかなか、、」
治「え、ちょっ、ちょっと待って?今倫太郎って言った?」
「え?う、うん…。」
すると治君は歯をギリギリと食いしばり、
あのヤロ〜!と眉を吊り上げた。
治「角名のヤツ、俺らにわざと黙っておったな!」
「あ、違うの!倫太郎君、今静岡に居るし明日は参加出来ないみたいだから、この前電話で話したんだ。
それでその時、治君のお店の事、教えてもらったの。」
治君の吊り上がった眉が下がる。
治「・・・そーか。まぁその点では角名に感謝やな。・・てかともみちゃん、ツムにはもう会えたん?」