❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第11章 永劫の花
「こうして一緒に開花の瞬間が見れて嬉しいです。みつひでさん、頑張りましたね」
「【凪】もだろう。向こうで健気に花開こうとしている。あと僅かで完全に開花しそうだ」
「えっ、私の名前つけた蕾、どれか分かるんですか?」
幾つもある蕾の中から、昼間に自ら触れて名付けたそれを見分けているような光秀の言い草に、凪が驚いた様子で眸を瞬かせる。開花した花は一輪だけではない。男の言う通り、【凪】と名付けて直接触れたそれもまた、その愛に応えるよう懸命に美しい姿を見せようとしていた。
「当然だろう。俺が愛しい【凪】を見違える訳がない」
「っ……」
すべての蕾ではないが、凪が丁寧に剪定した甲斐あってか、幾つもの蕾が大輪の花を咲かせた。辺り一帯が甘やかで上品な香りに満ちる。日ノ本でよく焚きしめられる香とは些か異なる、優しく包み込むような香りは凪がまとうにも、とてもよく似合っているように感じられた。
光秀が音にした凪という名が果たして自分なのか、真白な花の方なのか。それを図りかねたらしい凪が短く息を呑む。身体を寄せ合っている所為で、早鐘を打つ鼓動が伝わってしまうのではないかと懸念する彼女を余所に、光秀が指先で細い輪郭をなぞった。
「そ、その……月下美人って花言葉も綺麗なんですよ。【ただ一度だけ会いたくて】とか【秘めた情熱】、あと【強い意思】っていうのもあるんです」
おそらく羞恥を紛らわせる為だろう、凪が光秀から視線と共に話を逸らした。優雅に花弁を広げる、美しい月下の花に相応しい意味合いを耳にして、男が意識を正面へ向ける。
凪は、この月下美人が光秀のような花だと言っていた。確かに色合いを見ればそう受け取れなくもないな、と内心で零し、吐息混じりの笑いを零す。
「どれも俺には縁遠い言葉ばかりだ」
「そんな事ないです。光秀さんは誰より秘めた情熱も、強い意思も持ってるって信じてますから」
「それを言うならお前の方だろう」