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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 永劫の花



「どうした、今【凪】を慈しんでいる最中だったんだが」
「光秀さんの魂胆は見え見えですからね……!その、わざと恥ずかしい事いっぱい言ってっ」
「愛情をかけた分、成長の度合いが違うと言ったのはお前だろう」
「そうですけど、そうですけど……!!ううっ……墓穴……」

まったく意に介していない様子で光秀が言い返せば、凪は打ち返す言葉を見失ったらしい。はくはくと音もなく唇を小さく動かした後、俯いて両手で顔を覆う。そんな凪の様子を満足気に見つめた男が、黒髪の隙間から覗く、赤く染まった耳朶を指の背でなぞった。そうして眼の前の蕾ではなく、隣へ並ぶ彼女を呼ぶ。

「凪」
「……はい」

そろそろと顔を上げた凪の両手を、光秀がそっと退けてやった。抵抗もなくそれが離れていった事で、鮮やかな色に染まった彼女の姿が視界に入る。光秀から逸らしたくても逸らせない眸、熱で火照った肌、薄く開かれた唇やそこから溢れる呼吸ひとつですら、何もかもが愛おしく映った。
花には水を、最愛には愛を。唯一無二の花が決して枯れぬよう、離れてしまわぬよう、言霊で愛を伝えて凪を愛おしむ。

「こちらの【凪】より先に、随分と愛らしく咲いたな」
「……光秀さんの所為ですよ」

指の背ですり、と熱い頬を撫でて囁く。消え入りそうな声で返された彼女の言葉はしかし、とても厭うているようには聞こえなくて、光秀は傍にいる最愛の花をそっと両腕で抱き寄せながら瞼を閉じた。



蕾が上を向きはじめました。多分今夜咲きます!そう心底嬉々とした様子で光秀へ凪が声をかけて来たのは、光秀が【凪】と蕾のひとつに名付けて存分に愛を注いだ、その翌日の事であった。
月下美人は開花が近づくと、垂れ下がっていた蕾を上向きにする。そうして夕刻以降に仄かな甘い芳香を漂わせ、じきその瞬間がやって来る事を伝えるのだ。ちょうど水無月から文月にかけてがもっとも大きな花を咲かせるらしく、時期的にも程良い。

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