第3章 家族の絆ー後編ー
「光の呼吸 肆ノ型 極光!」
鬼であろうウネウネした肉の塊のような物体に細かく斬撃を入れながら杏寿郎の所まで行くと、杏寿郎も人を守るように戦っていた。
「起きたか、桜!」
鬼を斬りながら現状を聞いた。
善逸と禰󠄀豆子が三両を守り、残りの五両を杏寿郎が守っている。炭治郎と伊之助は人を守りつつ、鬼の急所を探して斬るよう指示したとのことだ。
「じゃあ私も杏寿郎と一緒に五両を守るわ」
杏寿郎と背中合わせになり、刀を構える。
「承知した!…桜、俺の背中は預けたぞ!」
「任せて。杏寿郎も…私の背中は預けたからね」
「うむ、任せろ!!」
杏寿郎の言葉を合図に二人は反対方向へと走り鬼の肉体を斬っていく。
どのくらい時間が経っただろうか。乗客を守るのに必死だったので分からないが、鬼の断末魔と共に列車は大きく揺れ脱線した。
このままでは横転して乗客もただでは済まない、と考えてると杏寿郎の声が聞こえた。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!二ノ型 昇り炎天!!」
技を使って衝撃を和らげているようだ。桜も刀を握る手に力を入れて技を繰り出した。杏寿郎ほどではないが、多少は衝撃を和らげることができるはずだ。
***
「無事か、桜!」
「私は平気。杏寿郎は?」
「俺も大丈夫だ!怪我人が多数いるので手当をお願いしてもいいか?俺は竈門少年たちの様子を見てくる」
「了解」
状況を把握してすぐに判断するのは柱ならば当然のこと。
そして桜を炭治郎たちのところではなく怪我人の手当てに向かわせるのも、医療の知識があると知っているからだ。
鬼は退治した。杏寿郎の判断は間違っていない。
だけどどうしてだろう。先ほどから妙に心臓の鼓動がうるさいのだ。まるで杏寿郎を炭治郎の元へ行かせてはいけないと、自分の中の何かがそう叫んでいる気がする。
「気のせい…、よね」
今すべき事は怪我人の手当てだと自分に言い聞かせ、重傷者を優先しながら手当をしていった。
「あ、桜さん」
「ムー!」
列車の外で、ちょん、と座りながら周りを呆然と眺めている善逸と禰󠄀豆子。
桜の姿を見るなり、目をうるうるさせて「俺頑張ったよぉぉお!」と泣きはじめた。
………お前は小さな子供か。