第2章 初めまして
「……大事な人からの、贈り物です。」
そう、濁して答えることしか安室には出来なかった。
「……そっか。」
少女はぽつりと、それだけ答えて安室から視線を逸らす。
「……大事な人って、何だろう。」
目の前の、何でもない白い壁を見ながら
少女は不思議そうな口調で、言葉を落とした。
その言葉に、安室は目を伏せた。
あぁ、この少女には、普通の感覚もないのかも知れないと。
そう思うと、なんの感情も表さない少女の表情を見ることが出来なくなった。
大事な人と言われて、年端もいかない少女が両親と答えない。
誰だろうとも言わない。
何だろうというその言葉からも、人を連想すら出来ない。
なんの感情も沸いていないと、体全体で表現されているようで、安室は目を伏せてしまった。
僕は、どうしたかったのだろう。
安室は自分に問いかけていた。
あの屋敷で、人を見つけた段階で殺すべきだった。
なのに連れ帰って、ここに匿って。
数分のやり取りだけで、ここまで自分の心が沈んでしまって。
僕は、どうしたいのだろう。
目の前の少女が、可哀そうだと思って連れてきた。
そこは間違いないのだが、そこから先、何をしたかったのだろう。
普通の生活に、戻してあげる?
恐らく、戸籍もない少女を?
少女の存在が、もし組織にしれたら消されるだろう、この弱弱しい存在を憐れんでいるのだろうか。
……少女を助ける自分に、酔ってるのだろうか。