第22章 想いと約束
そうは言われても剣を捨てて早数年。
そこらの男と比べると体付きも体力も剣の腕も勝っているだろうが、現役の柱たちや剣士たちと比べるとどうしても劣るというもの。
それに槇寿郎はただでさえ現炎柱の父親で元炎柱というだけで剣士たちから恐れられているのに、混ざってしまっては剣士たちの気が削がれてしまう可能性が大いにある。
「千寿郎も共に稽古をしています!共に汗をかくのも悪くないはずです!」
あと一押し。
杏寿郎の押しの強さに
共に稽古を行う
という方向に傾きつつある今、あと一押しで槇寿郎も稽古に参加する。
「槇寿郎さん!差し出がましいかもしれませんが、気付け薬ならばたくさん持参して来ています!私の暴走阻止のために今は実弥君に預かってもらってますが……効き目は抜群ですよ!」
どうにか共に稽古をと思っているもう一人からの、後押しになるようなならないような微妙な言葉。
体力の落ちている体に更に鞭を打つかの如く、バテれば気付け薬を飲めばいいのだと、とんでもない言葉を発した風音。
元々槇寿郎が稽古に参加しようがしまいがどちらでも良かった実弥の顔が、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「お父上、コイツの薬の効き目は柱全員のお墨付きだァ。いいじゃねェか、鈍った体に気付け薬ぶち込んで叩き起こせよ。俺が口ん中に流し込んでやっから」
「それは……その不死川の手に握られている巾着に……入っているのか?そんなに大量にか?!死んでしまうぞ!」
基本的に風音の携えている鞄はパンパンだが、巾着も然り。
実弥、杏寿郎に続き槇寿郎の視線も巾着に固定される。
……悲壮な表情で。
「ご安心ください!用法用量は製作者である風音が熟知しておりますので!……自身にはその用法用量が守られないのが残念でなりませんが!」
風音縮こまり実弥の陰に隠れる。
それでもやはりお口は止まらない。
「私の体はお薬に慣れておりますので……でも剣士の方々に無茶な飲み方を強制することはありません!槇寿郎さんにも、もちろん無茶な飲み方を推奨しないので安心して下さい!」
どうやら気付け薬を飲むことは決定付けられてしまったようだ。
つまり槇寿郎も否が応なしに杏寿郎の稽古に巻き込まれることを意味している。