第20章 強化訓練と育手
小芭内が目を剥いて見た風音の一部始終。
可愛らしい容器に指を突っ込み、何の躊躇いもなくおもむろに中に入っていたであろう軟膏を下瞼に塗り込む。
……そしてカッと目を見開いたかと思えば、その状態のままボロボロと両目から涙を流す姿。
目を限界まで開き涙を流しながら木刀を構える姿はとてつもなくいたたまれない。
「待て待て待てっ!君は一体瞼に何を塗った?!し、刺激物でも入れていたのか?!唐辛子ではなかろうな?!」
ズズッと鼻がすする音が響く。
目も充血している跳ねっ返りな少女は首を左右に振った。
「唐辛子ではありません!とある薬草から抽出した、スーッとするいい香りの液体を混ぜた軟膏なので!大丈夫!すっかり目が覚めました!よろしくお願いいたします!」
グズグズなクセに、やけにキリッとした表情で挑まれたとなれば小芭内としては応える他ない。
昨日自身で述べていた反省点をしっかり改善しようと動いている姿に僅かに目を細め、防いでは反撃してをいくらか繰り返した。
そして体勢を整えるために互いが距離を置く度、風音がポケットに手を突っ込んでは蓋を閉めずにしまっていたのか、軟膏らしき物を指に取り瞼に塗り込んでしまう。
(不死川!お前の元継子はどうなっている?!と言うよりいつもこんな感じで稽古なり鍛錬をしているのか?!……顔がグズグズになってるぞ!)
呼吸荒く涙を流し続けながら、風音は休む間もなく距離を詰めては関節をしならせ木刀を振り上げる。
こんな異常な状態なのに昨日よりも動きが格段に良くなっているのだから、小芭内は頭痛を覚えて溜め息を零すしか出来ないでいた。
「伊黒さん!至らない箇所があれば叩き込んで下さい!」
「……動きは悪くない。敢えて言うならばその表情で向かってきている姿がいたたまれないな。少し眠るといい」
突然小芭内が木刀を腰に戻してしまったので、風音の振り上げていた木刀に迷いが出た。
それを小芭内が見過ごすわけもなく、手首を掴まれたかと思えば頚椎に手刀が叩き込まれ、風音の体が力を失い小芭内の腕で支えられることとなった。
「ここまでしなくては止まらないか……はぁ、おい愚図共。柊木に感謝するんだな。気を失わなくて済むぞ」
いつの間にか小芭内の手には可愛らしい容器が握り締められていた。