第1章 ぽっちゃり彼女
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その日、俺は彼女との約束があって。
朝からどの服を着ていくか、少し迷っていた。
そろそろ春の訪れ間近。
あいつは就職活動の真っ只中で。
つい先日、大手メーカーの面接試験を終えて、とりあえず結果待ちになったということもあって久しぶりのデート。
俺も数年前は土日をフルに使って、色々な会社の面接だの説明会だのに行ったもんだ。
俺は文系ということもあって、何社受けたかもわからねぇほど受けてようやくもぎ取った就職先。
理系というのはそうじゃないらしく、もうすぐ4月になるというのに、あいつの受けた会社は片手ほど。
大丈夫なのか心配に少しなっちまう。
ともあれ、一流大手の面接も無事終わったっつーんだから、デートできるときにしておきたい。
あんまり放っておいて誰かに掠め取られちまったら、ショックすぎて死ねる。
「……よし、これでいいか」
姿見で自分を確認して、俺は財布と鍵を持って外に出た。
今日は天気がいい。ちょっと風は強そうだが、花でも見ながらあいつとのんびり散歩と言う名のショッピングもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、片手に持った車のキーをくるくるっと回しながら歩くと、前方のエレベーターホールに見知った奴が見えた。
「よ、お出かけか? 恋次」
「あ、おはよーっす。先輩は…デートみたいっすね」
俺の格好を見て、少し苦笑を浮かべた元後輩に眉を潜めた。
「なんだよ。変な格好か?」
「いや、気合はいってんなーって思っただけっすよ。そのジーンズ、ブランドもんじゃねーっすか」
「よくわかったな」
俺も持ってるんで、と笑う恋次になるほど、と頷いた。
黒のジーンズは、某有名海外ブランドのもので。
俺の持ってる服の中でも値段的にも結構上のほうを行くお気に入りの一枚だ。
「藍野とデートっすか?」
「おう。最近、就活でめっきり会えなくなってたからな」
そういうと、恋次がなるほどと頷いた。
恋次は社会人1年目。当時のことを思い出したのか、少し嫌そうに眉を潜めているのが、面白い。
本当にこいつはすぐに顔に出るな。
「でも、先輩が藍野と付き合うとは思わなかったっすよ」
「そうか?俺好みだと思うけど」
「まぁ…胸のサイズは確かに」
「人の彼女の胸を想像すんな」