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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第11章 梵天の華Ⅲ






家の前に着き、勝手に登録されていたらしい指紋認証と教えられた暗証番号で鍵を開け、目立つほど家具もなくあまり生活感の感じられない中へと足を踏み入れた。
持っていって玄関に置くだけでいい、と言われたことを兄貴に伝えたはずなのに、なぜか鼻歌を歌いながら兄貴は靴を脱いでいる。
「え、ちょ、」と止める間もなく軽やかな足取りでリビングへ向かい…停止した。



「…竜胆いねぇよ」
「?ここにいるじゃんオレ」
「は?違う蛍チャン」



口を半開きにした兄貴は、玄関で突っ立ったままのオレを振り向いてそう言った。
3秒経ってようやく理解したオレは、慌てて靴を脱いでリビングを覗くけど…もぬけの殻。誰もいない。物音すらしない。

“もし逃げ出していたら容赦なく殺していい”

…なんて指示は出されていないけど、マジで逃げてたらぶっ殺してぇ。
面倒かけさせやがって…あのクソ女。



「とりあえず家ん中探すかぁ、竜胆は奥な」
「ん」



リビングをもう一度ぐるりと見渡して、確実にいないことを確認してから無駄に長い廊下を進む。

綺麗に掃除されていて、埃ひとつ落ちていない家の中。
あのヤク中がやるわけねぇし、あの女、ヤクザの娘とはいえ家事はこなせるらしい。
部下から預かった袋の中身だって、野菜だったり肉や魚だったり、菓子類の材料だったり…欲しくて買ってもらうモンが俗に言う一般の主婦みてぇだし、料理できんだな、って。



「竜胆」



洗面所のドアを閉めてからその声に振り向けば、兄貴は玄関から三つめのドアを半分だけ開けて室内に目を向けていて。
その顔があまりにも真剣で、おかげでこっちまで気が引き締まる。



「どうした兄ちゃん」
「…アレさぁ、大丈夫だと思う?」



近くに寄ったオレに小声でそう言った兄貴は、手をかけていたドアを全開にした。
キィ、とドアの軋む音が静寂に包まれた家の中に響く。

同時に見えてきた室内はどうやら女の寝室のようで、女物の服やら下着が散乱している。
綺麗に掃除された家の中とはあまりにも正反対の、異常なほど荒れている薄暗い部屋の窓際…一人で寝るには広いベッドの上に、シーツもタオルもぐちゃぐちゃになった状態で、女が膝を抱えて座っていた。



「…は?」



衝撃的な光景に、思わず喉が震えて声が漏れる。


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