第9章 【第八訓】昔の武勇伝は三割増で話の話
「キャサリンは鍵開けが十八番なんだ」
待ち構えていたのは、タバコを吹かしている貫禄のある婆さんだった。
お登勢といい、銀時に二階の部屋を貸している。
スナックに強制連行され、銀時はもちろん、○○ら三人も家賃未払いの罰で働かされている。
「○○さん、さっきからヤケに大人しいですね」
黙々とモップがけを行っている○○に、新八は話しかけた。
万事屋を出てから、○○は一度も言葉を発していない。
「信じられない……」
「家賃のことですか? まァ、依頼もさっぱりありませんしね」
信じられないのは家賃のことではない。
キャサリンに驚いて、声を上げてしまった自分に対して。
元真選組監察たる身。背後から忍び寄られただけで声を上げるなど、あってはならない失態。
もっと心を鍛錬せねばと、固く誓いながらモップを動かす。
「所で、さっきから馴染んで掃除してるけど……アンタ、誰だい」
フッと白い煙を吐きながら、お登勢は○○に目を向けた。
モップを滑らせる手を休めて、その視線を見返す。
「ご挨拶が遅れました。□□○○と申します。毎度お世話になっております」
○○は丁寧に体を直角に折り、お辞儀をした。
「毎度お世話した覚えはないんだけど」
「上の部屋をお借りしております」
お登勢は驚く風もなく、銀時に目を向けた。
「何だい、チャイナ娘だけじゃ飽き足らず、こんないい年した女まで連れ込んでるのかい? ハーレムか? ハーレム作る気か? 金はねーくせに女侍らすたァ、いい身分じゃないかい、銀時」
「バカ言ってんじゃねーよ。侍らせるなら、こんなガキどもじゃなくて、色気のある姉ちゃん侍らせたいもんだぜ」
銀時は溜め息を漏らす。
「ご迷惑をおかけすると思いますが、何卒ご容赦下さい」
「挨拶もらった所悪いけど、家賃が払えないなら出てってもらうよ」
○○は黙るしかなかった。
有無を言わせぬ迫力がお登勢には備わっている。