第6章 【第五訓】喧嘩はグーでやるべしの夕の話
「それより、近藤さん、止めに行った方がいいんじゃないですかィ」
「近藤さん?」
部屋を見渡しても、その姿はどこにもあらず。
「ピリピリしてるから気づかないんでさァ。聞こえやせんか」
「聞こえるって、何が」
耳を澄ませると、それは確かに聞こえた。
――○○!
――開けてくれって!
――お兄さんに全部話してみろ! 兄ちゃん、怒らないから!
「あのバカ!」
微かだが、近藤の声と扉を叩く音が聞こえる。
そんなことをすれば、○○の怒りはますます増幅されるに決まっている。
落ち着くまで放っておくのが一番だというのに。
「テメェとの勝負はあとだ!」
「だから、言ってるでしょう。今日はやめといた方がいいですぜ」
「うるせェ!」
言い残し、土方は○○の部屋へと駆ける。
「そういやァ……」
一日に二回も負けると――
土方は、昼間、剣を交えた銀髪男を思い出す。
あの太刀筋は、どことなく○○のものに似ている。
それから、以前にも。
銀髪男とは異なるが、○○に似ている太刀捌きの人物と手合わせをした覚えがある。
一体、どこで。記憶をたどる前に、土方の思考は次の言葉で遮られた。
――○○!
――言わないなら認めないぞ!
――素性の知れない相手なんて、兄ちゃんは絶対に認めません!
――そうだ! トシにしないか! トシなら……いや、トシでも認めません!!
「何言ってやがんだ!」
近藤の暴走を止めるべく、土方は先を急いだ。