第33章 【第三十二訓】鍋は人生の縮図であるの日の真選組での話
年の瀬も押し迫ったある午後。
見廻り中の山崎は、○○のことを話題に出した。
○○の手による愛情のこもっている、かもしれない料理の件。
「○○さん、まだ元気がないですね」
「元気ねーのは構やしねェが、飯が不味いのは敵わねーな」
横を歩くのは沖田。
「昨日は肉じゃがでしたね」
ここの所、○○の作る料理に並々ならぬ不満を隊士達は抱いている。
昨夜の肉じゃがはあまりに塩辛く、一口ごとに大量の水分が必要な程だった。
「普通に食べているのは局長と副長くらいですからね」
○○に物言える二人が揃って食べているため、苦言を呈する者がいない。
隊の中で面と向かって○○に文句が言えるのは、上の二人と沖田だけだろう。
沖田は不平不満はあっても、
「今日もか、不味ィな」
と言いながら、ゴミ箱に器をひっくり返して食堂に向かうため、不満を言う必要がない。
その態度を羨ましいと思いつつ、他の隊士は○○の目と、せっかく作ってくれたという思いを気にして捨てられない。
「何の話だ?」
二人の話を横で聞いていた土方が口を挟む。
何のことだかさっぱりわからない。
「まさか副長、あの味付けに気づいてないんですか?」
「あ?」
土方は眉をひそめる。
何にでも大量のマヨネーズをぶちまける土方にとって、味の変化など意味を成さない。
塩味だろうが、醤油味だろうが、砂糖味だろうが、土方の手にかかればマヨネーズ味と化す。
「我慢して食べてたんじゃなかったんですね……」
山崎は呆れる。
何と人間が出来ているんだと、若干感心すらしていたのに。
ちなみに近藤は「これくらい食べられなければお妙さんの料理は食えん!」と我慢して食べている。
「副長、もしかして、○○さんの元気がないことも気づいてないんじゃ……」
土方は再び眉をひそめた。
「○○? いつもどおりじゃねーか」
山崎は冷ややかな目を土方に向ける。