第31章 【第三十訓】妖刀『紅桜』 其ノ四
「エリザベス!?」
甲板にその姿を見つけ、○○は声を上げる。
物陰に隠れながら移動していた○○は、ようやく日の光が届く所へとたどり着いた。
出た場所は甲板であり、自分がいた所が船上であることを知った。
そこで目にしたものは、真剣で打ち合う浪士達。
逃走の途中、大砲の音や尋常ではない揺れを感じたため、戦が起こっていることは見当がついていた。
大勢の浪士の中でも、一際目立つその姿。エリザベスはボードで敵を殴りつけて戦っている。
「エリザベス、後ろ!」
○○の声にエリザベスは一瞬、戦いの場から目を背けていた。
その隙を突くかのように、背後から一人の浪士が刀を振り上げた。
エリザベスは体を回転させ、その勢いのままに男の横顔をボードで殴りつける。
「ッ!! 何すんだ、テメェ!!」
浪士は○○にも刃を向けた。
白刃をかわすと、○○は頭突きを食らわせた。
木箱に繋がれていた縄は解けたが、両手はまだ後ろに括られた状態だ。
○○の手が縛られていることに気づいたエリザベスは、ボードを振り下ろして縄をぶった切った。
○○は自由になった手のひらを見つめた。
「何で出来てんの、そのボード」
エリザベスはペタペタと走って行くと、ボートを敵の後頭部へと打ちつけた。
これでようやく刀が握れる。○○は床に落ちていた刀を拾って構えた。
だが、そこに一つの問題点があった。
「誰が敵だかわからない!」
高杉一派、桂一派入り乱れての白兵戦。
高杉の仲間はもちろんのこと、桂の仲間とすら○○は顔を合わせたことなどない。
真選組のように揃いの服を着込んでいない浪士達が相手では、誰が敵だか判別出来ない。
○○はかかって来る人物のみと応戦する。
もしかしたら、桂、高杉両陣営の者を返り討ちにしているかもしれない。
(どちらにせよ攘夷浪士だ。どっちでもいいか)
と、思いながら、○○は大暴れ。