第5章 【第四訓】喧嘩はグーでやるべしの朝の話
「いだだだだ! 頭割れた! 頭割れた!」
鈍く轟く、木刀と頭蓋骨がかち合う音。
男はソファから転げ落ち、頭を押さえてのた打ち回った。
少年は木刀の先端を男に向けて、非難の言葉をぶつける。
「アンタ、最低だ! か弱い女性を力尽くで! しかも、神楽ちゃんのいる家で!」
黙って俯いてしまった○○の様子を見て、彼は勘違いをした。
無力で無抵抗な女性を家に連れ込み、暴行を働いたと。
「何言ってんだお前! 頭割れてる! これ絶対割れてる! 脳味噌割れてる!」
「割れちまえ! そんなスカスカの脳味噌なんて! この人がどれだけ傷ついたか……!」
少年は○○の顔面に向けて、細長い指をビシッと向けた。
「ふざけんな! 俺を誰だと思ってんの? 銀さん、無抵抗の女にどうこうする男じゃないの!」
転げ回りながらも、男は自分に降りかかっている疑惑を払拭しようと声を上げた。
「嘘吐け! 本能のまま行動する無節操男が!!」
少年は男の言葉に聞く耳を持たない。
頭を押さえつつ、ふらつきながらも男は立ち上がった。
「嘘じゃねーって。俺が信じらんねーのか?」
「信じられるか! 何もかも!」
男は溜め息を吐きながら、親指で○○を示した。
「こいつァなァ、□□○○っつって、ガキの頃からのダチだ」
○○は息を呑んだ。
初めて聞く、自身のフルネーム。