第24章 【第二十三訓】隠し子騒動と盲目の剣士の話 其ノ二
「ギャアアアア!!」
天国に近いバカでかい建物の屋上に、長谷川の悲鳴が響く。
新八も「ごめんなさい!」と謝りながら、全速力で走っている。
不本意ながら、○○も迫り来る浪士達から逃げるしかなかった。
「煙に紛れて刀、踏んだくって来ればよかった……!」
○○はキリキリと歯を噛む。
武器さえあれば、多勢が相手でも向かっていける。
敵に背を見せて逃げるなど、屈辱でしかない。
「ぬごおおお!!」
「神楽ちゃん!」
気合の入った声が聞こえ、屋根のてっぺんへと目を向ける。
備えられていた機器を剥ぎ取り、神楽が浪士達へとぶん投げた。
「うわァ!」
○○や新八の頭上を越えると、丸太型の機器は屋根を転がり落ちて行く。
逃げる浪士達。だが、盲目の男だけは背を向けることなく刀を抜いた。
「本当に目ェ見えてないの? アレ」
鋼鉄の機械は居合で真っ二つに両断された。
他のごろつき浪士とは明らかに異なる。一企業に雇われるような剣客とは思えない。
○○は頂上から、一段下の屋根へと飛び移った。浪士達は姿を消したと勘違いし、撤退してくれた。
ようやく、一時でも安堵の時間が持てた。
「あなたですよね? 僕らのウチの前に赤ん坊を置いていったのって」
新八は助け出した娘、房という娘に事情を聞いた。
橋田屋に奉公に来て一人息子の勘太郎と出会ったこと、屋敷から逃げて勘太郎と一緒になり、勘七郎を生んだこと。勘太郎が亡くなり、賀兵衛は跡取りとして勘七郎を奪おうとしていたこと。
勘七郎を万事屋の前に置いて行ったのは、二人とも捕まってしまうことを避けるため。
「賀兵衛って野郎は、とんでもねェ下衆野郎らしい」
房の話を聞きながら、五人は逃げ道を探して建物内へと戻った。
見つからないように階下へ向かうが、そう上手くは運ばない。
「下衆はそこの女だ」
賀兵衛の声。彼は浪士を引きつれていた。
房だけは守らねばと、○○と新八は彼女の前に立ちはだかる。
時間を稼ぎ、房だけでも脱出させなければ。
○○は浪士との間合いを図る。まずは刀を奪うことが先決。
だが、○○が浪士に飛びかかる前に、彼等は斬り伏せられた。