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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第10章 お代は要りません《前編》◉相澤消太※



「・・アンタ、それでも本当に俺のファンなのか」

「え」

「何もわかっちゃいないね」

始業まであと五分、忙しなく人の行き交うこの場所で一体何から伝えればいいのか、まさかこのまま一日を過ごせと言うのか

その手首を離した俺は、目の乾きを誤魔化すため瞼を閉じて目頭を押さえた






「グッモーニンイレイザー!おっとォ!朝からめぐチャンに会えるなんて最高だぜェ!」

黒い視界に響いた騒がしい声、コイツが入ると事態はややこしくなると決まっているのに


「山田先生・・!」

ほっとしたような彼女の声に、眉間に皺が寄るのを感じる
山田を見上げて美しく弧を描いた口元、優しく微笑んだ目、それが彼女の全てではない事を俺だけが知っている


「今日もSoo cute!一限目オレ暇なんだ、コーヒーでもどう?」

「ふふ、私は仕事が山積みですよ」

「そりゃ残念!じゃあ今度ディナーでも!」

「楽しみです」

そろそろ失礼しますね、調子を取り戻した彼女が会釈をして俺の前をすり抜ける

仕事が山積み、そりゃそうだろ、昨日は俺の腕の中であんなに乱れて




「めぐ」

生徒を叱る時のそれと変わらない、自分でも驚く程に怒気を孕んだ声
釣られて黙った山田に舌打ちをすると、直立不動の彼女を見下ろした



「今夜は遅くなる、寝る前に連絡入れてくれ」

電話するよ、屈んで睨みつけるとこれ以上無いくらいに大きく開かれたその目
触れた彼女の髪がするすると指の間を通っていく


「イレ、え、相ざ・・」

「消太でいい」

その瞳がみるみる潤んで、俺は少しだけ呼吸がし易くなった


「WHAT!?いつの間にデキちゃってんの水臭いぜェエ!?」


目は口ほどに物を言う、彼女の瞳は喜びどころか「迷惑をかけたくない」と語り、恐れているように揺れている



「・・ひとつだけ言っておくが、」

変わらずの困惑顔、燻った想いの丈を今更吐いたって今夜の電話程度では埒が開かないだろう、そう思うと自身の繁忙が心底恨めしい

次にその肌に触れる時には、逃すつもりは無いと必ず分からせよう


「責任取る、とかじゃないよ」

五月蝿い叫び声を上げている山田に集まる視線を感じながら


「またあとで」

目の前の愛らしい顔を俺は思い切り睨みつけ、四つ折りにしたそれを淡いグレーの胸ポケットに突っ込んだ
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