第18章 どうでもミルフィーユ◉相澤消太
淡い色のシーツに広がる髪、幸せそうに左手を眺める彼女はまだ目を潤ませている
「楽しいか」
呆れた声にもまるで夢見心地、粉砂糖のように軽くて甘い微笑みを崩したい俺は薄手のセーターに手を忍ばせた
「ひゃ、やだ・・っ」
「意味合い的にも、ミルフィーユに負けてないだろ」
「えっ、相澤くん知って」
「俺の予想通りなら、あまりに単純だがな」
上がる体温、擽るように伸ばした指先が好い場所に触れると彼女は甘く唇を噛み締めて
昔からそれに欲情していると知ったらどんな顔をするだろうか
「もう、本当可愛くないんだから・・っ」
「ほら集中しろ」
「ま、だお昼・・!」
指輪ばかり見ているのが癪だなんて口が裂けても言えない、自身の幼稚さに殆呆れる
薄れた色に吸い付くと、重ねるように咲かせた花が彼女の肌を彩った
「んぁ・・っ、それだ、め・・っ」
「悪いな、俺はこれが好い」
遠慮する理由がないだろ、耳に噛み付いてそう囁くと涙目の彼女が恨めしそうに睨んで
枕を掴んでいた手が背中に回ると高くなった声、愛しいその合図に唇を重ねて俺は熱を吐き出した
「いい季節だよね」
私春って好きだなぁ、花粉症だけど、照れ臭そうに笑った彼女はまた飽きもせずに左手を眺めている
「ホワイトデーが記念日なのも覚えやすいよね」
なぜそうも意味付けしたがるのか甚だ疑問だ、同意を求めるような視線から逃げるように俺はカップを口元へ運んだ
「春は苺もおいしいし」
さすがにそれと結婚は関係ないだろ、咽せるのを何とか抑えてコーヒーを啜る
再び開いた画面には相も変わらず粗暴な発言を繰り返す爆豪のニュース、世の中には理解に苦しむ事が多すぎる
「ね、どう思う?」
「ん、ああ」
どうでもいい、その言葉をコーヒーとともに飲み込んで目線を上げる
お前がそうしたいなら
「いいんじゃないか、春でも苺でもミルフィーユでも」
円周率でもπでも、思い切り吹き出したその間抜けな顔が見られるなら何だって
お前が居ればいつだって
「俺は構わないよ」
「どうでもいいんでしょ」
「・・分かってるなら聞くな」
細い指が目尻を拭うと、贈った石の何倍も綺麗なそれが白い陽に光る
窓から吹き込んだ心地の良い風、今年も淡い色を付け始めた木々が重なるように揺れていた