第16章 忌まわしき日
食堂についたとき、そこはすでに大勢の兵士で溢れかえっていた。
食器同士がぶつかる音や、なにかこぼしてしまったのか悲鳴も聞こえてきた。相変わらず騒がしい場所だ。
「俺はオルオに話をしに行く。お前はペトラを当たれ」
「了解です」
「昼食後、俺の執務室に来るようにと――」
言いながらぐるりと食堂を見渡したリヴァイはふと口を閉じた。不思議に思ったアリアは彼の目線の先を追う。
「仲が良いですね」
食堂の端っこのテーブル。そこにペトラとオルオが向かい合って座っていた。
訓練終わりなのか、二人の顔はどこかくたびれている。しかし食事を運ぶ手は止まらない。よほど腹が減っているらしい。
「探す手間が省けた」
リヴァイは短く言って二人の元へ歩き出した。
アリアも慌ててその後を追う。
なるべく感情を表に出さないように表情を引き締める。二人とはプライベートでも親しくしているが、今は特別作戦班の副官として接しなくてはならない。
アリアたちが近づいてくるのに気づいたのはペトラが先だった。アリアの姿を見て浮かんだ笑顔はリヴァイを見つけてすぐに消え去る。オルオも顔を上げてリヴァイを見つけ、急いで立ち上がろうとしたのか、椅子に引っかかって食事を床にぶちまけた。
「あらら……」
思わずアリアは声をこぼす。
オルオの顔面は蒼白だった。
リヴァイの様子を伺うと、汚れた床を見て一瞬不愉快そうに顔が歪められた。だが特に怒っているわけではないのだろう。
「オルオ・ボザド。ペトラ・ラル」
二人の前で立ち止まり、名を呼ぶ声はいつもと変わらない調子だった。
アリアはリヴァイの斜め後ろで立ち止まり、かすかな微笑みを浮かべて二人を見る。ペトラはリヴァイとアリアの顔を見比べ、オルオは半分泣きながらぶちまけた食事を片づけるか、リヴァイの話を聞くか迷うように、手を右往左往させていた。
「座ったままでいい」
立ち上がりかけたペトラを制すようにリヴァイが言う。
二人は顔を見合わせ、椅子に腰掛けた。