第70章 七支柱春药 〜弍〜 / 🌫️・💎・🌊・🐍・🍃・🔥・📿
「カァー、カァー!! 義勇…手紙ジャ」
水柱・冨岡義勇は己の鎹鴉である寛三郎から文を受け取っていた。
早朝の自主稽古を切り上げた矢先に鴉から声をかけられた彼は、送り主が誰であるのか特に確認する事なく、文を開ける。
「宇髄から?…間違いではないのか」
何故なら義勇の鎹鴉は人間で言う【老齢】であり、記憶力等が低下している為だ。
指摘しても「問題ナイ」の一点張り。
それ以上の追求を諦めた水柱は、文に目を通していく。
「?…やはり間違いではないのか。次は俺の番とは一体何の事だ」
文を両手に持ったまま、思考と体が固まる義勇である。
彼が持つ手紙に書かれている文面とは ——
【次はお前の番だとよ、冨岡】
「カァー」
水柱の肩にとまっている寛三郎が間の抜けた鳴き声を嘴から出した。
およそ犯行予告さながらの文を貰った義勇だが、実際は何の事はない。
お前の番とは、七瀬が次に情交を結ぶ相手が義勇 —— なのであるが、今の彼には予想もつかない状態だ。
『全くわからない』
静かに文を畳んだ義勇は深く長い息を一度つくと、縁側に向かう。
「……」
ゆっくりと腰掛け、そこへ置いていた竹筒を持ち、口へと運んだ。
ゴクリ、と形の良い喉仏が複数回動く。
「寛三郎」
「ドウシタ、義勇」
「……俺もここまでなのだろうか」
「…? ナニガココマデナンジャ?」
「…」
自分の頭の中に思い浮かんだ一つの結論を、口にする事はなく、義勇はそれきり黙ってしまった。
「…? 下にもう一枚あるのか」
指先に感じた少しの違和感の正体は天元からの二枚目の文である。
【どうだ!? 驚いたか?? まあ確かにお前の番には間違いねーんだけど….】
義勇は眉間に皺を寄せながら、続けて音柱の文を黙読していく。
『あいつが奇妙な血鬼術にかかったのか』
ここでようやく合点がいった彼は、丁寧に文を折りたたみ、再び竹筒を手に持った。
「オ前ノ番トハ何ノ事ジャ?」
「…術の詳細が書かれていない」
義勇のやや噛み合わない会話は、相手が鴉でも同じか。