第9章 あなたの愛に包まれて*後編 上* 宇髄天元
なんてことだ!
そんな大事な日だったなんて!
それなのに、呑気に「イベントですかー?」なんて聞いてしまった自分が恥ずかしい!
いや、知らなかったのだから仕方がないけれども…
それでもだ!
「おー、派手にいい反応だなぁ!」
宇髄さんは私の大慌てっぷりを見て、それはそれは可笑しそうに笑っていた。
「なんで教えてくれなかったんですかー⁈私何もプレゼント用意してません!どうしよう!うわぁーん!」
「だぁー!おいっ、泣くなっての!」
「だってぇ…」
突然泣き出す私に今度は宇髄さんが大慌て。
私の涙を拭ってみたり、頬を優しく撫でてみたり…
「俺が言わなかったんだから準備なんか出来っこねぇだろ?」
「うぅ…、それでも好きな人のお誕生日ですよ?張り切りたいじゃないですか。プレゼントとか、ケーキとか…」
宇髄さんは一瞬びっくりしたような顔をして、それからふわりと微笑んだ。
「俺が前もって言ってたら、張り切ってくれた?」
「もちろんですよぉ」
「そっか、ありがとなぁ」
お礼と共に、ぎゅうっと抱きしめられた。
大きくて温かい腕の中。
フワリと香る爽やかな柑橘系の香り。
私の大好きに包まれて、ここはやっぱり落ち着くなぁ。
「煩わしいかと思ったんだよ。子育てしながら別のことまで考えてたら大変だろ?」
「大変なことは、無いとは言い切れませんけど…。でも少なくとも、宇髄さんのことは私大変だなんてちっとも思いませんよ?」
「…無理してねぇ?」
「全然です!宇髄さん遠慮しないでください!」
「本気の奴には慎重になるんだよ…」
抱きしめながら、私の首筋に顔を埋(うず)める宇髄さんから発せられたちょっと弱気な言葉たち。
いつもの余裕は何処へやら。
でもそれがちょっと可愛いと思ってしまった。
愛しい、な。
「来年は、お祝いさせてくださいね。私、宇髄さんのこと考えてる時間、すごく幸せなんです」
そう言ったら、さらにぎゅうっと抱きしめられた。