第7章 あなたの愛に包まれて*中編 上* 宇髄天元
「……あ、宇髄さん!」
紗夜は突然ハッと何か思い出したかのように大きな声を出した。
「ちょ、オイオイ。もうちょい声のトーン落とさねぇと奏真起きるぞ?」
「大丈夫です、奏真一回寝たらちょっとやそっとじゃ起きないので!」
マジかよと奏真の顔を覗き込んでみれば、紗夜の言った通り、奏真はスヤスヤと夢の中。
……。
今はいいが、これはこれでちょっと心配だ。
夜中の緊急事態とかな。
まぁ、何かあったらそん時は俺がすっ飛んで来てやるか。
うん、そうしよう。
「んで?何か思い出したことでもあったか?」
「思い出したというか、気になってたことがあって。
一昨日図書館に行った時に、宇髄さん何か言いかけてたことありましたよね?あれ、なんだったんだろうなぁって思ってたんです」
「……」
……は⁈
ちょっと待て、何の話だ…
俺なんか言いかけてたか?
一昨日の図書館だろ?
………。
あ"ー、やべぇ!思い出せねぇ!
必死に思い出そうと頭を抱えた俺を見て、紗夜は若干ショックを受けていた。
「宇髄さん…大丈夫です!きっと重要な話…ではないんですよね?だったら、忘れちゃって当然です。無理に思い出させようとしてごめんなさい」
そう言いながらしゅんとしてしまった。
紗夜にこんな顔させるなんて、俺としたことが。
「紗夜、謝るなよ。俺が悪かった。思い出すから、そん時何の話してたか教えてくれるか?」
「でも、そこまでしなくても…」
「いや、ぜってぇ思い出すから。な?」
俺に任せろと意気込めば、紗夜は目を丸くした後ふふっと笑った。
「じゃあ…、その時しばかりを調べるからって宇髄さんがいっぱい本持って来て、その中にあった“今昔物語集”っていうのを開いたら、昔の言葉で読めなかったんです。それで宇髄さんが『今度うちのがっ…』って言ったんですけど、言いかけて終わっちゃったからなんだか分からなくて…」
あー…、言ったかも。
つぅか中途半端じゃねぇか俺…
モヤモヤすんだろ。
これは無理にでも思い出してやんねぇと。
「ちょっと待ってろな?」
俺がそう言うと、紗夜はにこっと笑ってコクンと頷いた。