第25章 過去
「ちょ、ちょっと!いきなりっ…!!」
「動揺しすぎ。てか、なーに勝手にみてんのさ」
「あ、こ、これは…すみません」
急いでアルバムをしまった。
「本当にすみません、勝手に見ちゃって」
「んーん、いいの」
そう答えるさんの表情は悲しげだった。
「……大丈夫ですか」
「え?なにが?」
「いや、悲しそうだったから」
そう言うと、少し目を見開いてオレの顔を見る。
やっぱり思った通りだ。悲しみに滲む瞳がぐらぐらと揺れている。
はぁ、と息をついて、さんが語りだした。
「……俺ね、兄貴が死んでから、この辺近づけなかった。
見たら、悲しくなっちゃうから。
悲しくて、悲しくて、自分が壊れそうだった。
だから、物置にはあんまり行かないようにしてたの。
千冬に頼んだのもそういう理由。
でもあんまり帰ってくるのが遅いからさ、どうしたんだろうって様子みにきたら、勝手にみてるんだもん」
ふふ、といつもより力なく笑った。
「でも、千冬が勝手にみてくれて良かった。
ね、千冬。俺と一緒にアルバムみてくれる?」
「…はい、一緒に」
そういって、一番古そうなアルバムを手に取ったさんの手は震えている。
そっと、大丈夫だと言い聞かせるように上から手を重ねると、ハッという息づかいとともに、こちらを見たのを視界の端で感じ取る。
その視線をあえて絡めとるようなことはしない。
1ページ目をめくる。
小学1年生だろうか、幼いさんが入学式の看板の前に立って一人で写っている。
「…お母さん、もうこの時にはいなくてさ。一応、親父はいたけど、しょっちゅう遊び回ってたまに家に寝に来るだけ。
寂しくて、甘えたくて、話しかけた事もあったけどさ。鬱陶しがられたよ。
当然、入学式には来なかった。
兄貴が親みたいなもんだよ。」
へらっと力なく笑いかけてくるその人の小さな肩を、思わず優しく抱き寄せる。
今よりももっとこの肩が小さかった頃、さんは、通常なら得られるはずの愛情をひたすらに求めたのだろう。
求めて伸ばしたその手を、この人の親は振り払ったのだ。