第35章 最後の嘘※閲覧注意
もう誰なのか判別できないほどに、焼けただれた皮膚が垂れ下がる。焦げた皮膚の下からは肉が覗き、焼け残った髪が辛うじて人間の姿を保っている。
身長からして男性である事はわかる。それ以外はもう、何も分からない。
とても動けるような状態ではないのはひと目でわかるというのに、尚、前へ前へと歩みを進める。
その男の腕には、シャツに覆われるように包まれた何かが抱えられていた。
否、服からは二本の足が晒されていて、中身が人であることがわかる。
隣で、雪村が震える口を開いた。
「その、シャツの柄……………く………く、じょう……だよな………?」
九条?
「……」
もう、声が出せないのだろう。
その男は僅かに頷いた。
本当に?
この男が、九条なのか?
名前に違わぬ、凛とした風貌だったあの男が?
なら、なら、その腕にいるのは。
その時、服の布がハラりと捲れる。
包まれていた服の中からは、目を閉じてぐったりしているの顔が見えた。
「…!の事連れ出したんだな!!はは、やっぱすげぇなお前は!!
九条、とりあえずお前の方が先だ、はやく病院に…!!!」
錯乱気味の雪村の言葉に、九条はゆっくりと首を横に振った。
俺はもういい。いいんだ。
そう言っているように見えた。
「…ッ、!!あ、あぁっ!!九条……ッ!!!」
全てを悟ったかのように、雪村の目からは涙が零れ、嗚咽を漏らした。
誰の目からみてもわかる。
もう、彼は助からない。
最後の力を使い果たしたかのように、九条が膝から崩れ落ちる。
地の上で、腕に抱えたごと倒れた。
そのまま、黒く焦げ皮膚が垂れ下がった手での体を抱きしめ、愛おしそうに頬をなでる。
「っ!」
「九条ッ!!」
雪村、千冬と共に傍に駆け寄る。
九条は俺たちの目を、何か訴えかけるように見つめてきた。
そして、口をパクパクと開いた。