第33章 追憶
「もう震えてないし、笑ってるな」
そう言って微笑むと、頬に触れていた手を取られ、そのまま引き寄せられ凛の胸の中にすっぽりと収まる。
そういえば、昨晩はいつもみたいに甘やかして、愛撫され、一緒に吐精し合ったまま就寝したため、お互い全裸だ。
いつのまにか、こいつは俺よりも遥かに背が高くなり、筋肉もついて逞しい体つきになった。
「小さい、細い、肌柔らかい、いいにおい…」
「…何言ってんだお前。変態っぽいぞ」
「こんなに見た目は可愛いのに、強くて、カッコよくて……でも頼りないとこがやっぱりかわいい……」
「り、凛?」
「…………はぁーーーー、もう。鈍感。のバカ」
「は!誰がバカだ!」
「好きだよ、」
鼓動がうるさい。
そんなに震えたら凛に聞こえる。
静まれ、俺の心臓。
「…俺も、好きだよ」
ねえ。
もしかしたら。
俺とお前の好きは、もしかしたら、同じなのかな。
****
「千冬、お前もと最後までシただろ」
「ブッ!」
唐突な指摘に、思わず飲んでいたコーラを吹き出す。
バイト帰りにたまたま三ツ谷くんと会い、少し話すかとコンビニで飲み物を購入し外に出て、今に至る。
「いきなり何言い出すんスか!」
「はは、悪い悪い。で、どうなんだよ」
「……まぁ、はい。そうっすね」
「やっぱりか。はぁ、あいつはホント……はぁ…」
三ツ谷君の口からため息が止まらない。
嫉妬をするよりも、あの節操のなさに呆れたという感じだ。そういうところが、この人は本当に落ち着いていると思う。
この人は、東卍の頃から同世代の中で一歩抜けて大人びていた。
「…嫉妬とか、しないんですか?」
率直な疑問が口をついて出た。
「嫉妬、か。お前にはしねえな」
「…九条さんとか?」
「……………あいつさ、こんだけ節操ねぇくせに九条には手出してねえんだよ。
どういう事か、わかるか?」
「……それって」
「本命は大切にしてるってことだろ。
オレにとってはさ、そっちのがよっぽどムカつくよ。散々遊びやがって、一発殴っても許されるよな?オレたちは」
ははっと冗談めいたように言うが、酷く傷ついているように見えた。
そして、オレも胸が抉られる感覚を覚えた。
知りたくなった。