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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



「残りは後で舐めるといい」
「…ありがとうございます。あ、お花の形してる。可愛い…!」

気恥ずかしさから来る、むっすりとした照れ隠しの不機嫌は光秀によって渡された巾着で、すぐに鎮火する。巾着の中身をそっと見れば、そこには白い紙に包まれた残りの有平糖が入っていた。一粒取り出し、手のひらの上にちょこんと置いた飴は淡い水色の桔梗の花が象られている。
白い凪の手のひらに乗る、小さな桔梗。嬉しそうに口元を綻ばせる彼女の姿を見つめ、光秀が告げた。

「…ああ、愛らしいな」
「飴自体が小さいのに、こんな細かい細工が出来るなんて凄いですね…!色も凄く綺麗です」

しばらく小さな花を眺めていた凪は、自らの手のひらの温度で溶けてはいけないと飴を包みへそっと戻し、枕元へそれを置いた。光秀が考えた通り、おそらくあと数回ある薬湯の口直しにでもするつもりなのだろう。

「……でも、あんなに可愛いと食べるのなんか勿体ないな」
「菓子一つでご機嫌が取れるなら安いものだ。また幾らでも買って来てやろう」
「あ、そういうつもりじゃ…!その、高そうですし」

身体へかける上掛け用の着物を整えてやっていると、凪がぽつりと呟いた。身体を横たえるよう促してやれば、やはりそれなりに身体の辛さはあるらしい彼女は、抵抗なく褥へと横たわる。凪が喜ぶのならば、別に幾らでも買ってやるというのに、彼女は案の定すぐに遠慮を見せた。この時代、砂糖が貴重品であるという知識ぐらいは持ち合わせているらしく、細工の細やかさも相俟って、それなりの価格だと踏んだのだろう。枕代わりの布の上へ頭を置きつつ、慌てて首を振ろうとした彼女の後頭部へそっと片手をあてがった。目眩がしては困る、といった意図で触れはしたが、結局男の大きな手のひらは優しく髪を梳く為、自然と動く。

「俺がそうしたくて勝手にする事だ。お前が気にする必要はない」
「でも、」
「どうしても礼をしたいと言うなら、これを貰うとしよう。それで十分だ」

これ、と指したのは凪の柔らかい唇だ。散々口付けた所為でしっとりと潤うそこを人差し指でそっと押し、光秀が喉奥でくつりと笑いを零す。

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