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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第14章 紫電一閃



(凪の元へ向かう前に、水浴びが必要だな)

それはそれで何故、と思われるかもしれないが、彼女にこの澱みの残滓を嗅がせるくらいならば、その方がいっそましだ。
辿り着いた地下牢の最奥、太い木枠で嵌め殺した縦横の格子の奥で力なく項垂れる一人の女の姿を視界に入れ、その両手首が後ろ側へ回され、縛り上げられている様を確認した後、声をかける。

「生きているか、女」

かけた声は怜悧(れいり)な色のみを宿していた。
淡々とした感情の乗らないそれに気付き、項垂れていた頭を持ち上げた女は、牢前に灯されている炎の灯りによって照らされた男を捉え、皮肉な様を見せて笑う。

「…まあ、これは明智様」
「お前に用向きがあり、わざわざこうして足を運んだんだ。素気無く追い返してなどくれるなよ」
「それは用件次第でしょう」

鍵を開け、自ら牢内へ躊躇いなく足を踏み入れた光秀は、静かに扉を閉ざした。中に居る女の手を縛った縄は、そのまま杭で壁へ打ちつけられている為、限られた範囲までしか進む事が出来ない。故に、内側から鍵を掛ける事はなかった。
女は牢に入れられているにも関わらず、いまだ身綺麗なままである。それは光秀自身が家臣や牢番に命じて手出し無用と言い付けてあったからに他ならない。女という性を持ちながら、こうして何事もなく牢に留め置かれる程、乱世は甘くはない。

「…今日は、あの可愛らしいお姫様はご一緒ではないのですね。てっきり肌身離さず傍に置いているのかと思ったのですが」
「お前の無駄話に耳を傾けるのもやぶさかではないが、今は時が惜しい。手短に済ませるとしよう」

双眸を眇めて肩を竦めた女は、支子色(くちなしいろ)の小袖をまとった、術計の宴における裏の立役者たる女中であった。ちなみに立役者は言わずもがな、凪である。
光秀により凪を巻き込む形に計画を動かすよう知らぬ間に誘導され、その罪を凪へなすりつけようとした件(くだん)の女中は、目の前に立つ光秀の悠然とした笑みを見て眉根を顰めた。

「……面白くない男」
「お褒めに預かり光栄至極。……しかし、お前の雇い主もなかなか面白みに欠ける男らしい」

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