第7章 差し伸べる手
《……没収された荷物とか…んんーー》
ボソボソと普通の人なら聴こえない位の非常に小さい声にもならない、吐息と口パクでクロムが呟く。
だが、一応仮にも歌手で、羽京程では無いが耳が良いのが自慢なのでそれなりに息遣いは聴こえてはいる。
《で ん ち …》
口パクで読み取った声と耳からの音を照合する。
なるほど、電池があれば確かに色々用途もあるだろう。流石、科学使いを名乗るだけある。
「……あの~…??」
「…あ、ああ!わりぃ!!やっぱいーぜ!」
そうクロムが笑う。
そうですか~、また何かあれば言って下さいねー。
とだけ告げてその場を去った。
******
その日の様子を司に報告した後、羽京が潜んで居るはずの森の中へ移動する。
「…………羽京君」
小声で呼びかける。
するとザザッ、と音がして羽京がやってきた。
「あはは、流石にもう叫ばなくなったね?」
「まあ叫ばなくてもこれくらいの声量が最低限あれば来るって分かったので~」褒めて褒めて~と葵が猫の様にトテトテ擦り寄ると、はいはい、頑張ったね、と撫でてくれる。
「…で?何か掴んだんでしょ」
「はい〜。脱獄アイテムです。私の方でも色々差し入れてますけど、本人に直接聞いたら『電池』だって。……没収された荷物の中にあるやつですよね」
「ああ、電池ね。それなら僕管理場所が分かるし、君はクロム君の密偵だから彼の荷物は持ち出しづらいでしょ?今日の夜中に僕がこっそり牢の中に差し入れしておくよ」
ありがとう~と葵はにこーっと笑う。
「でもよく聞き出せたね?そんなのハッキリ言いづらいと思うけど」
「……彼、喜んでいいのかどうか分かりませんけど、私への警戒心ゼロみたいなんです。
あと、単純に割と彼は思ってる事が吐息程度だけど出てたので。監視の人には気付かれてないし、私の耳なら聴けるレベルだったよ~。私は読唇術と耳からの音で照合したけど、羽京君なら楽勝かなー」
あはは、成程ね、と羽京が納得する。
じゃあまた、と密会をお開きにする。
流石は元海上自衛隊、森の中を颯爽と素早い動きで去って行く羽京を葵は見送る。
……天使もいいけど、森の妖精もいいな……
どうでもいい事を考えつつ、彼の去る音も消えた頃に葵は呟いた。
「さて、行きますか」
身を翻し、墓場へと向かった。