第1章 【プロローグ】宣戦布告
ふんわりとした雰囲気を纏い、自分の意見は余りハッキリとは言わない。その彼女が見て見ぬふりをせず、引き下がらなかったのだ。
同じく動揺していたのは司だけではなかった。司達の居場所から少し離れた木の上で苦々しい顔で石像が砕け散る音を聞いていた青年――――西園寺羽京もだった。
自分ですら止められなかった…いや、正確には止めようとする事すら出来なかった葵が、まさか司に意見するなんて。
勿論、葵がたまたま石像を破壊している司の元に近づいていたのは石像の砕ける音と葵の位置関係から分かっていた。だが葵の性格上、恐らく黙って去るか、声をかけても穏便に済むだろう…そう見くびっていたのだ。
『これは不味い事になったな…』
こうなった以上、恐らく葵はこの司帝国には今まで通りには居られない。だからといって千空達の科学王国に行ける程の力も無いだろう。
葵は非戦闘員だから、直接の危害は無いだろうが…羽京は彼女を止めなかった自身を恥じた。
周囲の心配を他所に、葵は言葉を続ける。
「確かに若い人を多くのお年寄りが搾取してきた側面はあります〜。でもそれ、『彼ら』だけでは無いですよね。
年齢関係無く、誰であろうと他人からお金や大事なモノを奪ってる人は居ます。……司さん。旧世界で、多くのメディアに引っ張りだこになってた貴方もまた、貴方の言う既得権益者ではないのですか?」
火に油。としか言い様のないくらい、その一連の発言は完全に司の理想郷を否定するものだった。司の発言する瞬間を待たず、葵は続ける。
「それに、若者達の国を作るだけなら、わざわざお年寄りさんの石像を壊す事までしなくても良いのでは?復活液を管理してるのは司さんです。復活液をかける相手を、『司さんが』選べばいいだけです〜、ですから……」
少し悲しそうに唇から紡がれる言葉。心の底から、目の前で壊される命を悼む声。
司がハッとして目をやると、そこには一筋の涙を流している少女がいた。
泣きながらそれでもなお、霊長類最強と謳われる司に怯える事なく、キッとその目は自身を見すえていた。
「葵。確かに君の言う通りだよ。俺のこの手にも、石像を壊す権利なんてないだろう。君の言う通り、俺も汚れた既得権益者である事も事実だ。」