I don’t want to miss a thing.
第1章 …I'll be there for you.
そんなことを考えていれば、きゅっと右手に確かに感じるあたたかなぬくもり。
驚いて咄嗟に横を見れば、私の小さな手を包み込むようにおかれた一回り大きな少し骨ばった手。
早馬が駆けるようにドクンドクンッと激しく高鳴る鼓動。
どうしてだろう、あんなに大きな花火の打ち上げ音だって今の私の耳には響かない。
重ねられた掌から視線を徐々に上げれば、肩まで捲り上げた浴衣の袖の奥で、こちらを見つめて微笑む少し熱を帯びた瞳と視線がぶつかる。
私の心の中を真っすぐな優しい瞳に見透かされているような気がして、瞳をそらしたいのにどうして?
私の身体は金縛りにあったかのように動かない。
周りの時間が止まってしまった、本気でそんなことを思った。
そんな私の心を知ってか知らずか、
「…今日の椿木さん、ほんとすげぇ可愛い。」
なんてタカちゃんが耳元で囁いて、重ねた指を絡めてくるものだから、もう私の頭はショート寸前。
全身の至る所が熱で浮かされて、
キュッと握られた掌がやけに熱くて、
鼓動がやけにうるさくて、
このまま溶けてしまうんじゃないか、そんな遠い記憶に読んだ小説の一節が頭に浮かんだ。
暫くして、こてんと隣のタカちゃんの肩に頭をもたげたのは、決して雰囲気に任せたとかそんなんじゃなくて、今の私が出来る精一杯のお返しで。
一瞬ビクリとはねた頼もしい肩に、”ざまぁみろ”なんて、心の中で思ってもない言葉が零れた。
何で手を重ねたのなんて、何で恋人繋ぎなんかするのなんて、そんなことしたら期待しちゃうから止めてよなんて。
聞きたいことも言いたいことも山ほど思い浮かんだけれども、今はただこのぬくもりを感じていたい。
きっと短い夏の夜が、人々をほんの少し大胆にする。
2人の距離がほんの少しだけ縮まったような気がするのは、きっと全部この熱くて眩い夏のせい。
でも思えば、タカちゃんに出逢った日から、私はタカちゃんの解けない魔法にかけられていたのかもしれないね。
2人を繋ぐこの温度と距離がいつかホンモノになりますように。
火照った肌に心地よい涼しげな風が、少し煙たい火薬の匂いと共にタカちゃんの少しクセのある甘い香水の香りを運んでくる。
頬を撫でられているようなくすぐったい感覚に、私はふわりと微笑んだ。