第34章 記憶から消えた君
三ツ谷とドラケンから自分の知らない"佐野万次郎"を聞かされ、マイキーは驚いて目を見開いた。
「けど…あんな人前で盛大に告っておいて、何でアイツのことだけ忘れるんだろうな」
「詳しくは担当医に聞いてみるか」
二人はマイキーに起きている症状に気付いていたが、何故カノトのことだけ記憶から消し去られているのか、不思議に思った。
✤ ✤ ✤
「記憶障害ですね」
「記憶障害?」
「部分的な記憶喪失の可能性があります」
「でも後遺症は残らないって…」
「珍しいケースですね」
あの後、担当医から聞かされたのは、強く頭を打ち付けたことでマイキーが部分的な記憶喪失になってしまったと云う事だった。
「記憶喪失ならどうして俺らのことは覚えてて、カノのことだけ忘れてんだ?」
「それは判りません。だから珍しいケースなんです。けど考えられるのは恐らく…貴方を想う気持ちが強過ぎて、その部分だけ欠落してしまったんだと思います」
「だからカノのことだけ覚えてねぇのか…」
ドラケンは顔をしかめる。
「あの…戻りますよね?記憶。ちゃんと僕のこと…思い出しますよね?」
不安げに聞くと担当医が難しい顔をし、そしてどこか言いづらそうに口を開いた。
「分かりません。ただ…強いキッカケがあれば、貴方の事を思い出すかも知れませんが…」
曖昧な答えにカノトは目を瞑り、眉を顰め、重い溜息を零す。
「(つまり…マイキーくんが私のことを思い出す可能性は低い。)」
『知らねぇって言ってんだろ!?勝手にコイツ連れて来て恋人だって言われても信じられるかよ!!そもそもオレはコイツのことなんか好きじゃねぇ!!』
「(あの言葉は流石に堪えられなかった。まさかマイキーくんが私を想う気持ちすら失くしているなんて…)」
病室で叫んだマイキーの言葉が言われた後も酷く心を締め付け、いつまでも消えなかった。
✤ ✤ ✤
「カノ、タケミっち。俺ら今日は帰るな。アイツもピンピンしてるみたいだしよ」
「あ、はい」
「……………」
「大丈夫か?カノ。」
三ツ谷が待合室の椅子に座り、傷心し切っているカノトを見下ろす。
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