第4章 抱擁
「なにビビってんの? 呪霊も夕凪なら大した事ねーと思うし、ほらほら来いよ」
悟くんがあたしに手を差し伸べる。
そんな風に手を出されたら、思わず掴みたくなってしまう。でもいいのかな、ほんとにあたしこれからも悟くんの近くにいて大丈夫なのかな?
今ならまだ道を分岐出来る。手を出してはみたけどその手が前に進まない。悟くんがさらに手を伸ばしてくる。
「でさ、夕凪は俺の見えるとこにいて。ずっと……おまえはずっと俺のそばで、俺のこと見ててよ」
空気がしーんと張り詰める。
呼吸が完全に止まって死ぬんじゃないかと思う。息が出来なくてずっと胸が苦しい。
……悟くん、あたしは完全に落ちました。
婚約者の事も、自分の身の振り方も、五条家の事も、術式相伝の事も、何もかもが不安で動けなくなってたけど、今の言葉を貰ったから、あたしは悟くんの近くにいます。ずっといる。たとえ、何が起きても、どんな事があっても。
悟くん……信じていいんだよね?
悟くんの言葉にこくりと頷いた時、これまで泣かされてきた涙とは違う涙がツーっと一筋、頬を伝った。止まっていた手をゆっくり悟くんの方に伸ばしていくと、迎えにきていた彼の手がぎゅっとあたしの手を掴む。
そのまま、強く引き寄せられて、あたしは悟くんに抱きしめられた。