第3章 使用人
卒業が近づいていた。夕凪の帰りが遅いのはどうやら学校でいろんな係になっている事が発端だったようで、あの時俺は必要以上に夕凪を責め立てなくてよかった、とあらためて自分の判断を自画自賛する。
「悟くん、夕食終わったらちょっと来て」
珍しく、夕凪に離れに呼ばれた。その柔らかな声に少し心がざわつく。
ん? 何言ってんだ俺は! ざわつくってなんだ。ざわつくわけねーだろ、平常通りだ。普通だ普通!
「んだよ、用事って」
離れに着くと、和菓子とお茶が用意してあった。俺の好きなお菓子だ。気が利くじゃねーか。もてなされて嫌な気はしない。
夕凪は何か話しでもあるのかと思いきや、何も言わずじーっと俺の顔を見てくる。
最近つけ始めたサングラスでも気になるのか? 急に距離を詰めてきた夕凪からいい匂いがする。
こいつ、こんな香りしてたっけ? 髪の毛なのかカラダなのか? 着ている服からなのか? 花みたいないい香りにほんの少しだけ惑う。
「ちょっといい?」
夕凪が俺のサングラスを外す。
「なんなの?」
「秘密」
夕凪はじーっと俺を見ている。いったいなんだってんだ。しばらくすると携帯片手に写真を撮らせてと言ってきた。なるほどそういうことね。まだこんな頼み事聞いてんのか。俺は近くに寄って夕凪の手首をパシッと取った。
「はぁー、また誰かに頼まれたの?」
「違うけど」
「違うんならなんで撮んの?」
「自分用、あたし用だよ」
何言ってんだこいつは。毎日見てるのに自分用に俺の写真撮るって。俺のことそんな見てたいの? 自分の頬にほんのり熱を感じる。