第10章 別れ
……どことなく感じる違和感。
「駆け落ちすることはないよね?」って突拍子もないことを聞いてくる。駆け落ちって、僕が遺言に反して夕凪と駆け落ちってこと?
夕凪は遺言と自分は無関係だって思ってんのか? 何言ってんのかよくわかんねーけど、当主にありのままの気持ちを伝えるって、わかったって言ったから大丈夫だろうと僕はこの時思っていた。
◇
夕凪に話をする前に僕と二人で話をしたいといって当主が僕を部屋に呼ぶ。「夕凪の様子はどうだ?」って落ち着かない様子で聞いてくる。
「夕凪は変わらずだよ」
「遺言は計画通りいってるんだな?」
「話し合ったとおりギリギリまで夕凪には黙ってるよ」
「うまくいきそうか?」
フッ、少しおかしくなる。夕凪だけじゃなく当主の方も緊張してんのかよ。心配そうな顔だ。
「この一年、五条家としても手を尽くしたが、それで、わかってもらえるといいが」
「夕凪は鈍いけど、それはさすがに感じとってんじゃないかな」
夕凪に多少の違和感はあったけど、大丈夫だろ。ここで当主に不安になられてもややこしくなる。僕の言葉を聞くと安心したようで、僕が結婚したら当主の座を譲りたいと言ってきた。
「熟年夫婦で仲良く世界旅行でも行きてぇの?」
「母親から聞いたのか?」
マジかよ。適当に言ったのに。
「はいはい、ご馳走様。呪術界も御三家も僕が背負うからどこでも好きに行ってきて。お土産よろしくー」
僕もその方が夕凪と屋敷で好きにできるから都合がいい。そうなったら五条家は僕のワンマンだろうな。遺言書には感謝しかねぇわ。
「ハハ、悟はあんなに遺言書を忌み嫌っていたのに今では随分と変わったもんだな」
「僕は最初から従うつもりだったけど」
そんな冗談を言いながら打ち合わせを終える。万事順調。障害になるものは何一つない。あとは流れに沿って進んでくだけ。