第6章 キスの味
「もっと夕凪は貪欲になれば? そんなんじゃ何も手に入らないよ。呪術も強くならねぇ。わかりもしない未来に怯えて何もせず、今を大事にしない生き方してたら後悔するよ」
「あたしは、ただ周りに迷惑かけたくないだけなの。悟くんも含めて大切な人をわがままで振り回したくないの」
「わがままねぇ……欲しいものを欲しいっていうのはわがままなのか? それを手に入れるために今を選択して生きてんじゃねーの? 夕凪は何で高専に来たの? 俺に言われたから来たの?」
悟くんに言われて、自分でもよくわからなくなる。どうしていいのかわからなくなる。何も言えなくなる。
「俺ならそんなの我慢できねーけど」
そう言って悟くんは教室を出て行った。あたしだって本当は我慢なんかしたくない。悟くんの事、好きって言って付き合いたい。だけどあと1年半、そこまで待てば全てがはっきりする。
遺言の内容が悟くんに伝えられて、それをもとに悟くんは婚約者をどうするか判断する事が出来る。五条家との話し合いも進む。あたしがもし、悟くんの隣に立てる可能性があるのなら、それが許されるなら、あたしが出る幕はそれからでいい。
これまで何年もずっと、彼氏や彼女っていう関係じゃなく悟くんとは過ごしてきたんだから、きっと1年半待つなんて大した事ない。
あたしは、この時、そう思っていた。