第15章 隠蓮慕
彼は、笑みを崩さぬまま、その声に微かな怒気を滲ませた。
「でも、折角きてくれたんだ…。『極楽浄土』には送ってあげるよ」
「バカにしないでっ…!「血鬼術・凍て曇」」
童磨は、一瞬で距離を詰め、言葉を封じるように喉笛を氷と絶対零度の冷気を伴った螺旋で斬った。
ゴトリ、と女の体が地面に崩れ落ちる。
頸動脈を螺旋状の氷で斬ったにもかかわらず、凍らせきれなかった血が、勢いよく噴いた。
童磨の教祖服に、そして顔にまでが血に染まる。
「あーあ、汚れちゃった」
その鮮血の温かさが、先ほどまで抱き上げていた信者の体を抱いた感覚よりも、ひどく不快に感じられた。
童磨は、崩れた遺体を凍らせ抱きかかえた。
そのまま『寂静の間』の奥へ。
信者の遺体と共に『開かずの間』へと招き入れた。
『開かずの間』の扉を固く締めきった後、教団の幹部である唐津山に呼びかける。
「唐津山、悪いけど、掃除をしておいておくれ…。
少し荒れてしまったよ」
「畏まりました」
静まり返った空間。
バリバリバリと音を立てて氷が部屋を覆う。
完成したのは音の洩れぬ閉ざされた空間。
童磨は、『開かずの間』で、血塗れのまま、儀式のように信者と鬼殺隊士の肉を食らい始めた。
――こんなにも、美味しくない。
菖蒲との愛の行為の末の吸血の感覚とまるで違う。
味も
口に感じる無機質さも
高ぶりも
何もかもが、この生ぬるい肉と血とは異なり、拒絶するかのように何かが込み上げてくる。
___粗末にしてはならない。
_______もっともっと強くならなければ…!
____もっと喰らえ
___もっと…!
__もっと…!
その時、壁際に置かれた壺の一つが微かにコトコトと音を立てて揺れた。
童磨は、口元についた血を気にせず、その壺に視線を向ける。
壺からぬるりと顔を出したのは、上弦の伍・玉壺だった。
玉壺は、童磨殿の血塗れの姿と、周囲の悍ましい肉の匂いに、小さく喉を鳴らした。
「これはこれは…、童磨殿!
ちょうどよろしゅうございました!新作の極彩色に富んだ華麗な壺ができたので、ぜひ見ていただきたく...」
玉壺は、周囲の凄惨な光景には目もくれず、新作の壺を抱えながら、いつもの調子で軽薄に声を上げた。