第12章 帰還と安穏
「決まっているだろう、唐津山。
菖蒲のところだよ。松乃は菖蒲についているんだね?」
「はい。左様でございます」
「医者からは、菖蒲様のご容態を最優先に、日が高く暖かい時間帯に移動せよと仰せつかっております。
それまで『日の当たらぬ場所』もご用意してありますので、数日、菖蒲様のご容態に目途がつくまでお傍にいられますよう手筈を整えてございます。
すぐに菖蒲様のところへ行かれて差し上げてください」
童磨は、その言葉を最後に、姿を消失したかのような速度で本殿を後にした。
彼の目的地は、そのまま、菖蒲が運ばれたお堂。
お堂の明かりがうごめく数人の影を映す。
一人は間違いなく松乃であり、作戦に入る前に医者以外の男を近づけさせないよう配慮すると松乃から聞いていた。
一息つくと同時に、胸の内が少しずつ温かみを増すのを感じる。
揺れ動く感情に反応する体の違和感を感じたまま、お堂の扉に手をかけた。
_____あれ、どうして…
鮮烈に舞っていたあの舞は覚悟と誓いと願いの舞が思い出される。
菖蒲は己との再会を目にしてどのような反応をするのだろう…。
二つだけの想像できないシナリオに微かな緊張に似たようなものを感じた。
____でも、菖蒲は、もう十分にやったではないか…。
俺が彼女の惨状を聞かされてジッとしてられなかった。
彼女を慕う者の声が俺を突き動かした。
実田殿も、俺に助けを求めた。
そして、今菖蒲が俺の手の届くところにいる。
全てを理解していない状況で、彼女は体も心も痛んでいるのだと松乃に言い聞かされてもいた。
ならば、その心の傷も病も、ここでしか癒せまい…。
役得だ。
喜んで引き受けよう。
沢山沢山甘やかして、また、心から満開に咲く笑顔を見たい。
「松乃。今寺院から来たよ。入っていいかい…?」
「はい」
すぐに返事があり、引き戸をゆっくりと開いた。
寺院の女もいるが、医者は帰った後だったらしい。
「教祖様、お帰りなさいませ」
出迎えた松乃の奥の部屋に薄明かりがともった部屋が見える。
「菖蒲様は今深く眠っておられるようです」